シリウスをさがして…
卒業した彼氏の欲しいもの
クリスマスから3ヶ月後。
無事、陸斗は希望する東京の大学の受験に合格し、晴れて4月から大学生となる。
そんな高校生活もあと1日で終わろうとしていた。
今日は、卒業式。
卒業生代表で陸斗が答辞に選ばれていた。紬は、本人じゃないのに本人のことのように緊張していた。
体育館では卒業生、在校生、来賓や保護者の方々でいっぱいになった。
保護者席には陸斗の父さとしと紗栄も参列していた。手にはハンカチを持っていた。
一通り、流れに沿って式が始まった。
しばらくして、在校生の送辞を終えると、スタンドマイクに司会進行の教務主任の先生が立った。
「答辞、卒業生代表、3年1組 大越 陸斗さん」
「はい」
返事をして立ち上がり、壇上にあがって、一礼をした。
持っていた、答辞の紙を広げて話し出す。
「本日は私たちのためにこのように盛大な卒業式を開いていただきましてありがとうございます。また先程は校長先生をはじめ来賓の皆さん、在校生の皆さんからあたたかいお言葉を頂き、胸が熱くなりました。本当にありがとうございました。
こうして壇上に立っていると、体育館の靴が鳴る音、窓ガラスの一枚一枚も懐かしく、購買のおばちゃんや、保健室の先生、そして、先生たちの授業のすべてが、いとおしく感じられ、私たちがこの学校で過ごした3年間のいろんな出来事が次々に頭の中によみがえってきます。
満開の桜のもと、それぞれの喜びを胸に迎えた入学式。文武両道に力を入れるこの学校で、体育祭がすぐに行われ、いろんな学校から集まってきた我々は、一気に「仲間」になりました。
文化祭、水泳大会、修学旅行。
自分自身に照らして言えば、恋もしました。おおやけの前での告白は恥ずかしくて今でも穴があったら入りたいそんな経験をしました。途中からでしたが、剣道の部活に勤しんで、試合に負けたあの夏の日の悔しさは忘れることのできない思い出となっています。それでも、部活動での友とのかけがえのない時間は勝つことよりも貴重な体験だったと感じています。
そしてあっというまに三年生。進路を決める時期になって急に焦りはじめた私たちを、先生方は親身になって指導してくださいました。優しい時はこの上なく優しい、時には厳しく、飴と鞭のように指導してくださり、そんな先生たちに私たちは励まされてきました。
そして今日、私たちはこの学校を卒業します。 本音を明かしますと、この先、私たちの前に広がっている世界を見て、不安が溢れ出てくる思いもありながら、期待に胸が膨らみ、わくわくするような思いも致します。 どんな厳しい困難にも勇気を持って立ち向かうための力をこの高校生活の三年間で得たような気がしています。
最後になりますが、校長先生をはじめ諸先生方、そして、お父さん、お母さん、本当にお世話になりました。私たちは必ず皆さんから受け取った「想い」を忘れずに、それぞれの進路へと旅立ちます。どうかそっと見守ってください。そして時には変わらぬご指導をよろしくお願い致します。卒業生を代表して、ここで心から感謝の言葉を申し上げ、答辞とさせて頂きます。 本当にありがとうございました。」
紙を折りたたみ、深くお辞儀をして、降壇をした。
ーーーー式を全て終えて、生徒たちは別れを惜しむように昇降口前で友人や先生同士と話し合い、なかなか帰ろうとはしなかった。
紬は、陸斗と一緒に帰ろうとずっと昇降口で待っていた。
紬の近くでは、陸斗の父のさとしと母の紗栄も一緒だった。
「紬ちゃん、陸斗の答辞どうだった?」
「そうですね。ちょっと言わなくていいことも言ってましたね。」
「そうだよね。あれは、別にね。言わなくても良かったかもね。でも、あいつにとっては良い思い出なのかもしれないね。聞いているこっちも恥ずかしいけど。」
「いいじゃないの?自分で考えて話してるんだから、立派なもんよ。ああいうの恥ずかしくて考えるのも嫌なものよ。私もやったことあるから。きっと、言ったこと忘れてくれーって思ってるわ。」
「あ、そうだ。紗栄も高校の時、答辞読んでたわ。忘れてた。確かに何十年となれば何話してたかなんて覚えて無いよな。」
「ほらね、そんなもんよ。考えるこっちも何だかやる気無くすもんね。…噂をすれば、陸斗、昇降口で後輩たちに捕まってるわね。」
3人で話をしていると、陸斗は靴箱あたりで1、2年の在校生達にいろんな私物をくださいやちょうだいとせがまれていた。イヤイヤながらも、持っていた物を次々と渡していた。
「先輩、卒業記念に、ぜひ、何かください。」
「え…えっと、んじゃ、ネクタイとか?」
「やったぁ。ありがとうございます。」
「私にもくださいよ!!ボタンとか。」
「えーー、えっと、んじゃこれね。」
陸斗は、3つあるうちの1番したのボタンを渡した。
「わーい。ありがとうございます。」
横にいた康範はブツブツと羨ましいそうに立っていた。
「陸斗ばっかりずるいなあ。俺なんて、誰も来ないぞ。ほら、全部残っている。」
「まあ、卒業したら、制服は着る機会ないもんね。欲しい人にあげれば良いかなって…。」
「陸斗、全部あげたら、紬ちゃんに怒られるんじゃねぇの?いいの?ほら、あそこで待ってるぞ。」
靴箱で外靴に履き替えると、昇降口外で両親と一緒に紬は待っていた。陸斗の一部始終を目撃されている。
「あーー……。」
「先輩、私にもください!!」
隣に寄って来たのは、美嘉だった。
「え、森本さんも?なんで?」
「えー、記念に。何か、先輩のもの、持ってたら高く売れそうじゃないですか。だから、何でも良いので。」
「俺のは金目当てなの?」
「そう言うわけじゃないですけど…。」
「そしたら、これかな。」
1番上のボタンを外して渡した。
「ボタンもらっていいんですか?紬に怒られるんじゃ?」
「ここまでなら、ギリギリOK。あとはもう終わり。」
「……なるほど。ちゃんと考えてたんですね。」
「美嘉ちゃん、ぜひ、僕のも貰ってよ。僕のは第二ボタン!!」
康範はこれでもかとアピールする。
「えー、康範先輩のはちょっと価値上がらないからなぁ。」
「そんなこと言わないで!陸斗の付き人ってことで価値高いかもしんないじゃん。」
「あ、それは一理……1ミリも無いでしょう。」
「いいから。ストラップとかにしてくれてもいいし。」
「えー。それは陸斗先輩のでやりますし。」
「まーまー。俺の第二ボタンも貴重なんだぞ!」
「仕方ないぁ。もらってあげますよ。その代わり、アイスおごってくださいね。」
「え?!お祝いされるの俺の方なのに?」
「はい。一緒に食べてお祝いしてあげますから!」
「わかったよぉー。」
美嘉は康範からボタンを受け取ると、仲良く、コンビニに向かった。
「陸斗ー、じゃあなぁ。春休み中、どっか行こうな。連絡するからー。」
「おう!」
わちゃわちゃしながら、康範と美嘉は立ち去っていった。
紬は陸斗に近づいた。
「卒業、おめでとう。」
「あ。うん。ありがとう。」
陸斗はそういうと、着ていたブレザーを脱いで、紬に渡した。
「はい。記念にこれどうぞ。ほら、第二ボタンは死守したから。取ってたよ。」
「うん。ありがとう。でも、別に、私はモノにこだわってないから、何も無くても平気だったよ。」
「そんなこと言わないで受け取ってよ。」
「あー。うん。ごめん、ありがとう。」
後ろから、さとしが声をかける。
「そろそろ、俺たち帰るけど…。陸斗は車で帰るの?荷物預かろうか?」
「うーーんと。自転車が駐輪場にあるから、乗って帰るわ。んじゃ、荷物だけお願いします。」
「はいはい。んじゃ、2人で仲良く帰っておいで。気をつけてな。」
「はーい。」
「んじゃ、陸斗、先に帰るわね。紬ちゃん、あとよろしくね。」
紗栄も陸斗と紬に声をかけた。
紬は軽く会釈した。
「風、少し寒いかな。」
「ブレザー着てれば良いのに。ほら。」
「いいよ。紬にあげたんだから。もらってよ。」
そう言いながらもくしゃみをした。
「無理しないで、着なよ。帰りに忘れず、受け取るから。」
紬は羽織ったブレザーを陸斗にかけてあげた。
「うん。んじゃ、そうする。」
背負っていたバックをおろして改めてブレザーを着直した。
「帰り、絶対渡すから。」
そう言いながらも結局、渡し忘れて、ウチまで来て帰ってしまった陸斗。後日、紙袋に入れて、手渡した。
卒業式は無事に終わって、春休みとなった。
陸斗は東京の大学進学のための引っ越しの準備に大忙しだった。
無事、陸斗は希望する東京の大学の受験に合格し、晴れて4月から大学生となる。
そんな高校生活もあと1日で終わろうとしていた。
今日は、卒業式。
卒業生代表で陸斗が答辞に選ばれていた。紬は、本人じゃないのに本人のことのように緊張していた。
体育館では卒業生、在校生、来賓や保護者の方々でいっぱいになった。
保護者席には陸斗の父さとしと紗栄も参列していた。手にはハンカチを持っていた。
一通り、流れに沿って式が始まった。
しばらくして、在校生の送辞を終えると、スタンドマイクに司会進行の教務主任の先生が立った。
「答辞、卒業生代表、3年1組 大越 陸斗さん」
「はい」
返事をして立ち上がり、壇上にあがって、一礼をした。
持っていた、答辞の紙を広げて話し出す。
「本日は私たちのためにこのように盛大な卒業式を開いていただきましてありがとうございます。また先程は校長先生をはじめ来賓の皆さん、在校生の皆さんからあたたかいお言葉を頂き、胸が熱くなりました。本当にありがとうございました。
こうして壇上に立っていると、体育館の靴が鳴る音、窓ガラスの一枚一枚も懐かしく、購買のおばちゃんや、保健室の先生、そして、先生たちの授業のすべてが、いとおしく感じられ、私たちがこの学校で過ごした3年間のいろんな出来事が次々に頭の中によみがえってきます。
満開の桜のもと、それぞれの喜びを胸に迎えた入学式。文武両道に力を入れるこの学校で、体育祭がすぐに行われ、いろんな学校から集まってきた我々は、一気に「仲間」になりました。
文化祭、水泳大会、修学旅行。
自分自身に照らして言えば、恋もしました。おおやけの前での告白は恥ずかしくて今でも穴があったら入りたいそんな経験をしました。途中からでしたが、剣道の部活に勤しんで、試合に負けたあの夏の日の悔しさは忘れることのできない思い出となっています。それでも、部活動での友とのかけがえのない時間は勝つことよりも貴重な体験だったと感じています。
そしてあっというまに三年生。進路を決める時期になって急に焦りはじめた私たちを、先生方は親身になって指導してくださいました。優しい時はこの上なく優しい、時には厳しく、飴と鞭のように指導してくださり、そんな先生たちに私たちは励まされてきました。
そして今日、私たちはこの学校を卒業します。 本音を明かしますと、この先、私たちの前に広がっている世界を見て、不安が溢れ出てくる思いもありながら、期待に胸が膨らみ、わくわくするような思いも致します。 どんな厳しい困難にも勇気を持って立ち向かうための力をこの高校生活の三年間で得たような気がしています。
最後になりますが、校長先生をはじめ諸先生方、そして、お父さん、お母さん、本当にお世話になりました。私たちは必ず皆さんから受け取った「想い」を忘れずに、それぞれの進路へと旅立ちます。どうかそっと見守ってください。そして時には変わらぬご指導をよろしくお願い致します。卒業生を代表して、ここで心から感謝の言葉を申し上げ、答辞とさせて頂きます。 本当にありがとうございました。」
紙を折りたたみ、深くお辞儀をして、降壇をした。
ーーーー式を全て終えて、生徒たちは別れを惜しむように昇降口前で友人や先生同士と話し合い、なかなか帰ろうとはしなかった。
紬は、陸斗と一緒に帰ろうとずっと昇降口で待っていた。
紬の近くでは、陸斗の父のさとしと母の紗栄も一緒だった。
「紬ちゃん、陸斗の答辞どうだった?」
「そうですね。ちょっと言わなくていいことも言ってましたね。」
「そうだよね。あれは、別にね。言わなくても良かったかもね。でも、あいつにとっては良い思い出なのかもしれないね。聞いているこっちも恥ずかしいけど。」
「いいじゃないの?自分で考えて話してるんだから、立派なもんよ。ああいうの恥ずかしくて考えるのも嫌なものよ。私もやったことあるから。きっと、言ったこと忘れてくれーって思ってるわ。」
「あ、そうだ。紗栄も高校の時、答辞読んでたわ。忘れてた。確かに何十年となれば何話してたかなんて覚えて無いよな。」
「ほらね、そんなもんよ。考えるこっちも何だかやる気無くすもんね。…噂をすれば、陸斗、昇降口で後輩たちに捕まってるわね。」
3人で話をしていると、陸斗は靴箱あたりで1、2年の在校生達にいろんな私物をくださいやちょうだいとせがまれていた。イヤイヤながらも、持っていた物を次々と渡していた。
「先輩、卒業記念に、ぜひ、何かください。」
「え…えっと、んじゃ、ネクタイとか?」
「やったぁ。ありがとうございます。」
「私にもくださいよ!!ボタンとか。」
「えーー、えっと、んじゃこれね。」
陸斗は、3つあるうちの1番したのボタンを渡した。
「わーい。ありがとうございます。」
横にいた康範はブツブツと羨ましいそうに立っていた。
「陸斗ばっかりずるいなあ。俺なんて、誰も来ないぞ。ほら、全部残っている。」
「まあ、卒業したら、制服は着る機会ないもんね。欲しい人にあげれば良いかなって…。」
「陸斗、全部あげたら、紬ちゃんに怒られるんじゃねぇの?いいの?ほら、あそこで待ってるぞ。」
靴箱で外靴に履き替えると、昇降口外で両親と一緒に紬は待っていた。陸斗の一部始終を目撃されている。
「あーー……。」
「先輩、私にもください!!」
隣に寄って来たのは、美嘉だった。
「え、森本さんも?なんで?」
「えー、記念に。何か、先輩のもの、持ってたら高く売れそうじゃないですか。だから、何でも良いので。」
「俺のは金目当てなの?」
「そう言うわけじゃないですけど…。」
「そしたら、これかな。」
1番上のボタンを外して渡した。
「ボタンもらっていいんですか?紬に怒られるんじゃ?」
「ここまでなら、ギリギリOK。あとはもう終わり。」
「……なるほど。ちゃんと考えてたんですね。」
「美嘉ちゃん、ぜひ、僕のも貰ってよ。僕のは第二ボタン!!」
康範はこれでもかとアピールする。
「えー、康範先輩のはちょっと価値上がらないからなぁ。」
「そんなこと言わないで!陸斗の付き人ってことで価値高いかもしんないじゃん。」
「あ、それは一理……1ミリも無いでしょう。」
「いいから。ストラップとかにしてくれてもいいし。」
「えー。それは陸斗先輩のでやりますし。」
「まーまー。俺の第二ボタンも貴重なんだぞ!」
「仕方ないぁ。もらってあげますよ。その代わり、アイスおごってくださいね。」
「え?!お祝いされるの俺の方なのに?」
「はい。一緒に食べてお祝いしてあげますから!」
「わかったよぉー。」
美嘉は康範からボタンを受け取ると、仲良く、コンビニに向かった。
「陸斗ー、じゃあなぁ。春休み中、どっか行こうな。連絡するからー。」
「おう!」
わちゃわちゃしながら、康範と美嘉は立ち去っていった。
紬は陸斗に近づいた。
「卒業、おめでとう。」
「あ。うん。ありがとう。」
陸斗はそういうと、着ていたブレザーを脱いで、紬に渡した。
「はい。記念にこれどうぞ。ほら、第二ボタンは死守したから。取ってたよ。」
「うん。ありがとう。でも、別に、私はモノにこだわってないから、何も無くても平気だったよ。」
「そんなこと言わないで受け取ってよ。」
「あー。うん。ごめん、ありがとう。」
後ろから、さとしが声をかける。
「そろそろ、俺たち帰るけど…。陸斗は車で帰るの?荷物預かろうか?」
「うーーんと。自転車が駐輪場にあるから、乗って帰るわ。んじゃ、荷物だけお願いします。」
「はいはい。んじゃ、2人で仲良く帰っておいで。気をつけてな。」
「はーい。」
「んじゃ、陸斗、先に帰るわね。紬ちゃん、あとよろしくね。」
紗栄も陸斗と紬に声をかけた。
紬は軽く会釈した。
「風、少し寒いかな。」
「ブレザー着てれば良いのに。ほら。」
「いいよ。紬にあげたんだから。もらってよ。」
そう言いながらもくしゃみをした。
「無理しないで、着なよ。帰りに忘れず、受け取るから。」
紬は羽織ったブレザーを陸斗にかけてあげた。
「うん。んじゃ、そうする。」
背負っていたバックをおろして改めてブレザーを着直した。
「帰り、絶対渡すから。」
そう言いながらも結局、渡し忘れて、ウチまで来て帰ってしまった陸斗。後日、紙袋に入れて、手渡した。
卒業式は無事に終わって、春休みとなった。
陸斗は東京の大学進学のための引っ越しの準備に大忙しだった。