金色を纏うあやかし皇帝は、無色透明な蓮花の娘を染めあげたい。

004

 山道は森の中を一人で歩くことに苦はなかった。

 どうせ普段から森の中で狩猟を行って生活してきたし、何より自分のペースで進めるから。

 ずっと一人で生活していたから、むしろ人に気を遣う方が苦手なのよね。

 そう少なくとも、一人ならこんな目に合わなくてもいいし。


「いくら年頃の娘は皆集まるようにとは言ったってねぇ」

「本当よ。まさか、こんなハズレが来るなんて皇帝陛下も思ってもみないでしょうに」

「それよりもこんなのを出してきたなんて、どれだけ田舎なのよ。普通なら恥ずかしくて出してこないわ」

「言えてる……。あたしたちと同じ何て思われること自体、嫌だわ」


 後宮への門をくぐった私を睨みつけながら、壁のように並ぶ女の子たちは陰口をたたいていた。

 ああ、本人を目の前にして隠す気もないんだから、陰口というよりは悪口ね。


「どいていただけますか?」


 はっきり言って邪魔なのよね。

 そんな入り口のとこで壁のように立たれていても、他の子たちも入れなくなってしまうし。


「やだ、本当に入る気なの?」

「厚顔無恥なんじゃない?」

「皆さまは皇帝陛下の命に逆らえと、この場で言うのですか?」


 宦官や女官、それに私たちを検査した神官様までいるというのに。

 まぁ、こうなった原因はこの後宮前の広場に入る前に受けた検査のせい。

 危ないものの持ち込みがないかを確認されたあと、どこ出身や身分などの聞き取り調査がおこなわれ、最後に属性と力の測定がなされた。

 どうも広場(ココ)では、身分順で並ぶのではなく、属性ごとに分かれた後に力の色順に並ぶらしい。

 属性も色もないのは、やっぱり私だけだったわね。

 これだけの人が集まっても私しかいないって、国中だと片手くらいはいるのかしら。

 むしろ興味が湧いてくる。


「陛下のって言ったってねぇ。物事には限度があるでしょう? 自分が他人と同じだと思っているの?」

「むしろ一緒だったら気持ち悪いですけど?」

「はぁ? あんたねぇ!」

「別に貴女に呼ばれてここに来たわけではないので、関係なくないですか?」

「生意気な! あんたなんか女官にすらなれないわよ!」

「別に結構ですけど?」


 別に自分でも期待してココに来たわけでもないし。

 同じように集められた人間に何を言われても痛くもかゆくもなのよね。

 だいたいこんなとこで大声上げて張り合ったって、何の得にもならないでしょうに。

 私に突っかからないにしても、周りの目がどんな目で私を見ているかなんて確認しなくても分かる。

 だってずっとそうだったから。

 だから期待も何もしない。

 意味ないことに心を割いても無駄、無駄。
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