ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―
 ディルは名残惜しそうに屋敷を振り返り、そして苦笑した。部屋の明かりはほとんど消えている。エミはすでに眠ったのだろう。

(自分で見送りは不要、と言っておきながら、心のどこかで聖女が見送りに来てくれると期待していたのかもしれないな)

 エミとは他愛のない話で別れてしまった。もしかしたらあれが最期の会話になるかもしれないと思うと、ディルは少し後悔した。

 そういえば、ディルとエミは()()()の続きすらできていない。

 無理強いしてエミの身体に傷をつけたくない上、どういうわけかエミに嫌われるようなことは絶対にしたくなかった。そのため、ディルは必要以上に自分が臆病になっていたと今になって気づく。まあ、全てはドラゴンを討伐してから考えるべきことである。
 可及的速やかにガシュバイフェンに戻り、大手を振って婚約者を抱く。そのために、なんとしてでも生き残らねばならない。
 いささか動機は不純だが、ディルは「さっさとこの仕事を片付ける」と強く決心した。
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