ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―
 そのドラゴンは、超自然的な災禍そのものだった。身体の大きさは、大型の船ほど。漆黒の巨躯が、風を裂いてまっすぐに城に向かっている。

『愚カナ人間ドモヨ。アノ忌マワシキ聖女ノ封印ヲ我は解キタリ! 今一度、我ハコノ国ヲ滅ボサン!』

 呪いの言葉が、耳障りに空気を震わす。
 その場にいた誰もが、ドラゴンの出現に恐れおののき、本能的にドラゴンが炎によりこの国を蹂躙するのだろうと覚悟した。
 サンクトハノーシュ王国随一の頭脳を誇るディルでさえ、ドラゴンに勝てるという算段が一瞬たりとも思い浮かばない。

 しかし、聖女エミだけは違った。

「うわあ、ガチおこぷんぷん丸ってんね~~!」

 その場に立ち込めた緊張感を一気に弛ませる声でそう言うと、彼女はなにげなく一歩踏み出す。
 そして、自分の何倍も大きいドラゴンに向かって、エミはぴょんぴょんと手を振りだした。
 
「ちょっとちょっと、滅ぼすとか物騒なこと言ってるけどさ、仲よくしようよーっ! ラブ&ピースだってぇ!」
「おい、何をしてるんだ!!」
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