ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―
 セバスチャンはもちろん、ディルも口を半開きにして、ぽかんとした顔をしている。
 確かに彼が人目を惹く容姿をしているのは事実だ。しかし、ディルに面と向かって「イケメン」などと俗っぽい言葉を口にする貴族令嬢なんて、今まで出会ったことがない。ただの一人も、である。
 ディルにとって貴族令嬢というものは、一様に熱っぽい視線をぶつけて、あいまいな微笑みを浮かべ、まどろっこしい言葉で中身のないおしゃべりをするだけの存在だった。

 そんな貴族令嬢たちと比べると、聖女エミの振る舞いは一線を画している。

 瞬間的に奇妙な空気が流れたものの、セバスチャンは場をとりなすように、再びコホン、と咳払いをして、当初から気になって疑問を口にする。

「そういえば、エミ様はなぜこのような時間に? お約束の時間は、まだかと存じますが……」
「マ!? あたしは2時出発って聞いてたんですけどぉ!?」
「は、はあ。しかし、第一王子からの手紙には、4時と書いてありましたような……」

 セバスチャンはポケットから王室のサインの入った封筒を取り出す。手紙には、やはり「エミの魔法転移時間は午後4時」と整った字で書いてあった。
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