ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―
 急に現れた国王を、ディルは睨みつけた。
 
「よりにもよって、なぜ国王の寝室の隣で過ごさなければならないのです! 今すぐ部屋を変えてください!」

 本来なら国王と出会った際の長々しい形式ばった挨拶があるのだが、この際省略である。国王は慣れた様子で、特に咎めもせず、キョトンとした顔をする。

「何故だ? 部屋近ければ、その分仕事が頼みやすい。お前の好きな『合理的』とか言うヤツだろう」
「合理性というのは、双方の合意があって成り立つものです。これだから、もう二度とこの王宮には戻ってこないつもりだったのに……」
「な、なぜだ? 儂はお前に馬鹿呼ばわりされても阿呆呼ばわりされても赦しているというのに! こんなに心の広い国王は他にいないじゃろうて。それなのに、早く王宮に戻って来いと儂が命じても、やれ領地業が忙しいだの、国境近くの警備が手薄になるだの理由をつけて辺境に引きこもりよって!」

 プリプリと怒る国王に、ディルは低く唸る。

 賢王と呼ばれた先代の国王の一人息子で、権力争いもなく平和的かつ自動的に国王になったサンドリッヒ三世は、彼自身が政治手腕に長けているとは言い難い。
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