ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―
 ディルはエミの耳元で、大きくため息をついた。エミはくすぐったそうに身をよじる。さきほど頬にエリックの吐息を感じた時は、とにかく不快だったはずなのに、今はそうはない。
 部屋は静かで、ふたり分の鼓動だけが部屋に響いている錯覚すら覚えるほどだった。
 しばらくされるがままだったエミは、意を決したように広い背中に手を回すと、頭をぐりぐりとディルの胸に押しつけた。

「やっぱハクシャクの腕の中って安心する~。マジでマジでハクシャクが世界でいちばん好きピ選手権なんばーわん♡」
「……そうか」
「うんっ♡ 本当に会いたかったんだよ。会いに来てくれてうれしいな」

 エミがはしゃいだ声でそう告げると、抱きしめたときと同じくらい唐突に、ディルは身体を離した。
 エミはポカン、とした顔をする。

「あれ、おしまい? どうしたの?」
「……お前が魅力的すぎて、困る。これ以上はダメだ。我慢ができなくなる」
「なんの我慢~? あたしとしては、べつにハクシャクになら、なにされてもおけまるなんですけどぉ?」
「また、そういうことを言う……っ」
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