ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―
 相変わらず、エミの悩みなど知るよしもないディルはエミの手を握ったままのんきに深い寝息をたてていた。エミは「えいえい」と言いながら、ディルの頬をつつく。

「あたし、ハクシャクにはどんどんワガママになっちゃうなぁ……」

 盛大にため息をついて横になったエミは、大きなあくびをする。今日はいろいろあったのだ。さすがのエミも疲れている。
 間もなくして、静かな部屋にふたり分の寝息が聞こえ始めた。



 明朝のこと。

「……ハッ、いかん!」

 エミの部屋で痛恨の寝落ちをしてしまったディルが、がばっと身体を起こした。隣を見ると、エミが手を握ってすやすやと寝ている。婚約者の寝顔を網膜に焼き付けるほど凝視すると、ディルは小さくため息を漏らした。
 五分だけ寝るつもりだったのだが、気がついたら朝になっていた。窓の外をみれば、開け始めた空にかろうじて一番星だけが残っている。
< 265 / 392 >

この作品をシェア

pagetop