ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―
 ディルはエミを守ろうと、その華奢な身体を抱きしめる。エミは「きゃー」とも「わー」ともいえない、くぐもった悲鳴を上げた。その悲鳴が、爆発に驚いたから発したものなのか、それとも抱きしめられたことによる喜びの奇声なのかは、ディルにはわからなかった。とにかく飛んでくる瓦礫から、エミを守るのに必死だ。

 やがてあたりが静かになった。燃えさかる炎がはじける音も、建屋が崩れる轟音すらしない。完全に無音だ。あまりの静けさに、ディルは一瞬この世界が終わってしまったような錯覚に陥る。

(やはり、あの計画は失敗だったのか――……)

 真っ先に考えたのは、国のことでも、仕事のことでも、領地のことでもない。エミのことだった。明るく、いつも笑顔を絶やさない、異世界から来た聖女。王族から押し付けられた婚約者であり、唯一無二の存在。
 エミの笑顔が二度と見れないのだと思うと、胸が締め付けられたかのように苦しい。

 後悔が胸いっぱいに広がったそのとき、腕の中で暖かい何かがごそごそと動いた。ディルははっと我に返る。

「い、生きているのか……?」
「むー、ハクシャク~、苦しいよー……!」

 呆然としていたディルが、慌ててエミを解放する。エミはディルの腕の中からぴょっこり顔を出して、おおきく深呼吸をした。
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