ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―
「当たり前だよー! だってあたし、ずっとハクシャクのこと好きだったし!」
「しかし、お前にとって私は、ただの王族に押しつけられた婚約者に過ぎなかっただろう? だから、やはりプロポーズは大事だろうと考えてだな……」
「やーん、なになに! あたしはハクシャクのこと好きって何度も言ったのに、信じてくれてなかったってこと?」
「お前は誰にでも『好き』と言っているだろうが!」
「そんなことないもん! ハクシャクへの好きは特別なんですぅ~!」

 エミがプリプリと頬を膨らませると、ディルも負けじと口をへの字に曲げる。
 セバスチャンはふたりの言い争いを止めようと口を開きかけたが、すぐに思い直す。これはいわゆる痴話喧嘩と呼ばれるものであり、セバスチャンが口を挟んでもどうしようもないのだ。

(それにしても、エミ様が喧嘩とは……)

 ずっと何かに遠慮して、自分の意見をぶつけてこなかったエミがディルと言い合いをしている。その光景にセバスチャンは感動すら覚えた。
 どうやら、この二人は首都でのあれこれを経て、関係がまた一つ深まったらしい。
 セバスチャンは眼を細めて、「どちらが先に好きだったか」という不毛な言い争いをはじめたふたりを見つめるのであった。
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