ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―
 あふれ出した衝動のまま、この華奢な身体を蹂躙し、自分のものにしたい。いくら考えないようにしても、エミの一挙手一投足に元婚約者の影がちらつく。その男の記憶を凌駕して、自分の優位性を示したい。
 心臓を焼くような欲望が胸の奥底でせりあがる。微かな苛立ちは、間違いなく嫉妬だ。ディルは、何も知らない目の前の無垢な身体に、全てを教えこんだだろう相手に嫉妬をしている。


(いや、なにを考えているんだ私は。過去に婚約者がいてもなお、受け入れると決めたのは自分だ。嫉妬など、まったく合理的ではない。素数でも数えて冷静にならねば……)

 己の理性を総動員させながら、ディルは努めて冷静に言う。

「聖女、これ以上こちらの理性を試すようなことは止めろ。……後悔しても、知らんぞ」
「ん……。ダイジョーブだから、ね?」
「……クッ」

 濡れた瞳に見つめられ、ねだられた瞬間、ディルの最後の理性の砦が崩壊した。この聖女の瞳には、なにか魔法がかかっているに違いないとディルは思った。

「……その瞳で見つめられれば、きっとどんな男の理性でも陥落させるのだろうな。――たとえ、この国の王子であっても」
「……? なんで、いまエリックの話するの……、んむっ……!」
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