成長した年下王子は逃げたい年上妻を陥落させる
――え、今のはなにかしら……?

 コルネリアが不思議な鼓動に戸惑っていると、アイスブルーの瞳が、まっすぐにコルネリアを見つめてくる。
 相変わらずコルネリアの心を囚えて離さないその瞳は、不思議な熱を帯びているように見えた。

「コルネリア、ますます綺麗になりましたね。質素な服でも、貴女の魅力は隠せない」
「……ッ!」

 急な褒め言葉に、コルネリアは目を見開いて口をぱくぱくさせた。胸の中の「雷を怖がる可愛いリシャール坊や」が音をたてて崩れていく。

 そのうちに、城で働くメイドたちが主の帰還に気づいて大騒ぎで部屋に押しかけてきた。みな、口々に「おかえりなさい」と口にし、リシャールは穏やかにそれに応えていく。
 コルネリアがそっとリシャールの瞳をみると、あの不思議な熱は嘘のように消え失せていた。

 その夜、エツスタンの城には華々しい金の刺繍飾りの旗が掲げられ、エツスタンの人々にリシャールの帰還が知らされた。
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