成長した年下王子は逃げたい年上妻を陥落させる
 たっぷり一日かけて城下町を視察したふたりは城に戻り、夕食をともにした。 
 シェフたちが腕によりをかけて作った品々は、全てコルネリアが選んだものだ。リシャールがかつて好きだったものばかりである。
 しかし、夕食の前になにやらセバスチャンと話し込んでいたリシャールは、美味しそうな料理を目の前にしても、歓声一つ上げなかった。それどころか、先ほどの和やかな視察の雰囲気と一転して、どこか上の空で、不機嫌そうだ。
 食事の間、食堂には奇妙な緊張感が流れていた。

 食後のコーヒーが出された後、コルネリアはおずおずと口を開いた。

「……食事は、お気に召しませんでしたか?」
「いや、別に」

 リシャールの取り付く島もない回答に、コルネリアはとりあえず頷くことしかできない。
 夕食の時間は、気まずい雰囲気のまま終わってしまった。

――リシャールの様子が、何だか変だったわ。夕食の前にセバスチャンと何か話していたけれど、気に入らないことでもあったのかしら……。

 コルネリアは内心ため息をつく。昔のリシャールであれば、なにを考えているのかある程度は分かったものだが、今は違う。すっかり大人になってしまったリシャールがなにを考えているのか、コルネリアはまるで見当もつかない。

 暗い顔をして部屋に戻ってきたコルネリアを心配したサーシャは、コルネリアが好むプルメリアの香料をしたたらせた湯を用意してくれた。
 湯浴みのあと、サーシャは少し心配そうにしていたものの、今日は早く寝たいからとコルネリアはサーシャを下がらせた。もちろんすぐに寝られるわけもなく、城下町の一望できる窓際のソファに腰かけて、コルネリアは小さくため息をつく。
 昼間はあれほどまでに快晴だった空も、コルネリアの気持ちを映したかのようにドンヨリと曇っている。じきに雨が降るかもしれない。
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