成長した年下王子は逃げたい年上妻を陥落させる
 しかし、先の戦争はエツスタンに深い傷跡をのこした。

 戦場の舞台となったエツスタンの地は、目も当てられないほど荒廃した。ハンソニアの野蛮な騎士たちは田畑を踏み荒らし、街や村を燃やしつくしたのである。しかも、かなり徹底的に。
 さらに悲劇的なことに、エツスタンは名君と誉れ高かった国王、ヨナソン13世とその后妃クラウディアを失ってしまった。
 エツスタン王国の王族は、ヨナソン王の一人息子リシャールのみとなってしまったのである。この時リシャールは12歳。王権を握るにはあまりに幼い。

 そこで、当面の間、ピエムスタ共和国はエツスタンを支配下に置くと宣言した。

 この措置はあくまで一時的なものであるとセアム三世は繰り返し宣言したが、それに納得するエツスタン人はほとんどいなかった。それどころか、「混乱に乗じて国を乗っ取った卑怯者」とピエムスタに強く反発する始末。

 しかし、ピエムスタ共和国とて、荒廃したエツスタンを放置するわけにもいかない。エツスタンがハンソニア王国の手中に落ちれば、次に狙われるのはピエムスタ共和国の広大な領土なのだから。

 父王はコルネリアに難しい顔をした。
 
「エツスタン王族の生き残り、リシャール・ラガウェンは12歳。さすがに領主として実権を持つには若すぎる。そこで、お前にはリシャール・ラガウェンの配偶者となり、代行者として、よくあの領土を治めてほしいのだ」

 コルネリアは俯いた。


「ねえ、お父様。エツスタンの人々は、わたくしを歓迎しないでしょうね」
「その通りだ。あそこは色々難しい。……だからこそ、儂はお前に一生エツスタンにいてほしいとは言わん。リシャールが成人する数年持ちこたえれば、それでいい」

 愛のない、不幸な結婚になるのは、明らかだった。しかし、コルネリアはしっかりと頷く。
 数多の兄弟姉妹たちと比べ、抜きんでて賢いコルネリアは、元よりあらゆる将来の可能性を見越して教育されてきた。――だからこそ、コルネリアは選ばれたのだ。
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