成長した年下王子は逃げたい年上妻を陥落させる
 とにかく、いくら人生の師匠と呼ぶべきセアム三世からの頼みであるとはいえ、リシャールはコルネリアを手放す気は一切ない。リシャールが6年間ひたすら思い続けたのは、コルネリアだけだ。

 だからこそ、リシャールは徹底的にコルネリアを陥落させた。

――まあ、多少手荒い方法になってしまったのは、良くなかったかもしれないけれど、誰だって6年も片思いした人をやっと手にいれたら、ちょっとくらいタガが外れるだろう……。

 もう一度その身体を抱きしめたくなるのをなんとか我慢して、リシャールは窓の外を見る。
 外は雨で、遠くで雷が鳴っている。リシャールは一人、含み笑いをして、コルネリアの頬を撫でた。

「ねえ、コルネリア。実をいうと俺は雷なんて最初から怖くありませんでしたよ。貴女の寝顔を見たいがための言い訳です。だって、雷が怖いって言えば、好きな女の人に抱いてもらえるんですから」

 子供扱いを何より嫌う誇り高いリシャールだったが、コルネリアに抱きしめてもらえるのであれば、子供扱いも悪くなかった。らしくもない子供じみた嘘をついてまでも、リシャールはコルネリアのそばにいたかったのだ。
 そんな幼い恋心は、ようやくいま、実を結んだ。

 夏の終わりの雷雨の夜に、リシャールは幸せそうに目を細めた。じきにエツスタンに実り豊かな秋が来る。

◇◆

 アマン歴1658年、エツスタン王国は、ピエムスタ共和国の支配下から独立を宣言し、再び地図上にその姿を現した。
 リシャール国王は善政を布き、エツスタン王国はソロアピアン大陸の貿易の要として大いに栄えた。
 また、ピエムスタ共和国から迎えた年上の后妃を生涯愛し続けた彼は、たいへん子宝に恵まれたという。
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