成長した年下王子は逃げたい年上妻を陥落させる
「お父さまのご期待に沿えるよう、努力いたします」
コルネリアの了承を得て、セアム三世はすぐにリシャールとの縁談をまとめた。
祖国ピエムスタとの別れを惜しむ間もなく、コルネリアはすぐにエツスタンに向かう。2か月の旅を経て、ついにコルネリアはエツスタンに足を踏み入れた。
エツスタンの人々は、もちろんコルネリアを歓迎していなかった。輿入れするコルネリアのために特別な催しが開かれることなく、リシャールの住む城までの道のりを、コルネリアは冷え冷えとした視線の中歩くことになった。
夫となるリシャールもまた、コルネリアを歓迎していなかった。
「俺は、お前を妻にしたくてしたわけじゃないからな」
初めて会ったコルネリアを前に、リシャールは冷たく言い放った。
コルネリアが護衛で連れてきた騎士たちは、一瞬にして「無礼な!」と気色ばんだ。しかし、コルネリアは騎士たちを視線だけで諫めた。
――戦争で大事な家族をいっぺんに失った悲しみや不安。12歳という若さでエツスタンの領主になってしまったプレッシャーもあるでしょうに。
出会ってすぐに無礼な物言いをされたことに対する怒りは、不思議となかった。コルネリアの胸の中に強く湧き上がったのは、リシャールに対する深い同情だった。
それは、12歳の子供にはとても耐えられぬほど、重くて暗い宿命であるはずだ。それでも、リシャールはその悲しみに押しつぶされないよう、必死で己を鼓舞しながら、年上の花嫁を静かに睨みつけている。
悲しみと孤独が燻りながらもなお誇り高いアイスブルーの瞳は、コルネリアの心を囚えて離さない。
「リシャール、わたくしは仮初の妻なのです。ですから、ほんの短い間だけ、貴女の妻でいさせてくださいな。ほんの少しだけで、良いですから」
気づけば、コルネリアはリシャールを優しく抱きしめていた。