成長した年下王子は逃げたい年上妻を陥落させる
「リシャールが領主になれば、わたくしはようやくお役御免ね。この城ともお別れだわ」
「……コルネリア様は、本当にこの城を去られる気なのですか?」
「ええ。そのつもりよ。わたくしはしょせん、リシャールの仮初の妻。お飾りの妻がいたって、リシャールもやりにくいでしょう」

 コルネリアはあくまで淡々と答える。

 父王であるセアム3世と約束したのは「数年間荒廃したエツスタンを守ること」だ。コルネリアは言いつけ通り、エツスタンを守りきった。リシャールが無事に帰還し、領主としての引継ぎを終えさえすれば、自分の役割は十分果たしたと言えるだろう。

――破婚が成立すれば、田舎の領地でももらってのんびり暮らすのよ。

 この計画を話したのは、信頼できるサーシャと執事のセバスチャンだけだ。いつもは真っ先にコルネリアの味方になってくれる二人ではあるものの、今回ばかりは猛反対している。
 サーシャは必死で訴えた。

「コルネリア様はずっとここにいるべきです。エツスタンをここまで復興させたのは、コルネリア様なんですから!」
「そう言ってくれるのは、すごく嬉しい。でも、エツスタンを復興させたのは、この地の人々よ。わたくしは、そのお手伝いをしただけ。よそ者の私がずっとここに居座るのは間違っているわ。本来エツスタンは、エツスタンの民の国なんだもの」
「そんなことありません! 昔と違って、エツスタンの人々は、ピエムスタ共和国に多大なる恩義を感じておりますし、本当にコルネリア様のことが大好きで……ッ」
「サーシャはわたくしを買いかぶりすぎよ。それに、わたくしはこれから不幸になるわけじゃないの。これからは、田舎町で刺繍でもしながらゆっくりするわ」
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