スイート×トキシック
最終章 純愛の秘密
第16話
数日が経った。
その数日のうちに、見違えるほど生活が変わった。
まず両手足の拘束が一切されなくなった。
そんなものがなくたって逃げ出さないに決まっているのだから、正直今さらだけれど。
そして、あの監禁部屋にさらに色々なものが持ち込まれるようになった。
布団やテーブルは少し前から返ってきていたが、それだけじゃない。
硬かった床にはふわふわのラグが敷かれ、ほかにもぬいぐるみやクッションが増えた。
十和くんが帰りにちまちま買ってきてくれるのだ。
食べたいものを言えば基本的に用意してくれるし、お風呂にも毎日入れるようになった。
失った人権をすべて取り戻したと言っても過言ではない。
化粧水だとかマグカップだとか、そういう日用品も増えていった。
「…………」
洗面所で、2本の歯ブラシを眺めた。
十和くんのものの隣にわたしのものが並んでいる。
(同棲してるみたい)
みたい、じゃなくて、そうなのかも。
わたしたちはふたりで仲良く暮らしている。
日々、幸せを感じて止まない。
だってもう、不自由なんて何もない。
*
夕方を過ぎ、磨りガラスの滲ませる色が黒くなった。
十和くんの差し入れてくれた小説をぱらぱらと適当に捲っていると、ドアがノックされる。
「芽依、開けるよ」
「うん!」
同じ屋根の下で暮らしているだけでも充分だが、こうして部屋に来てくれることが何よりの楽しみだった。
ほかの部屋を行き来することは出来るものの、一度この部屋へ戻って鍵を閉められてしまうと、自由な出入りは出来ない。
十和くんが学校へ行っている間は仕方ないとして、それ以外はなるべく一緒にいたいのだけれど、用もないのに頻繁に呼びつけてうっとうしがられたくない。
寂しくても我慢しなきゃいけない。
この“幸せ”を守るために。
この部屋でなら、ひとりぼっちでも平気だ。
至るところに十和くんの気配があるから。
布団もクッションもぬいぐるみもそのほかのすべてだって、彼が触れたもの。
それらに触れていれば、間接的に彼に触れているのと一緒だ。
────ドアを開けた十和くんは、なぜか帽子を手にしていた。
黒色のキャップだ。