スイート×トキシック

(大丈夫だよね……)

 こんなこと(、、、、、)、いつまでも続くはずがない。
 すぐに誰かが助けに来てくれる。

(お願い)

 祈るように両手を握り締め、目を閉じた。

(お願い、誰か)

 気付いて。
 誰か、助けて。

 わたしはここにいる。



*



 ────それからまた、少し経った。
 正確には“少し”かどうか分からないけれど。

(まずい……)

 困ったことになってしまった。

 膝を立てた脚をぴったりと揃え、つま先を重ね合わせたとき、再びドアがノックされる。
 朝倉くんは返事を待たずして開けた。

「元気ー? お手洗い行く?」

「え……っ」

 なぜか正確に察せられ、つい()頓狂(とんきょう)な声がこぼれる。

 まさしくそれが、わたしの“困ったこと”だった。

 最後にお手洗いへ行ったのが確か昼休みで、あまり水分を取っていなかったからここまでこらえられたけれど、もう限界に近かった。

 でも、どうして分かったのだろう。

「何で、って顔してる。ただの勘だよ」

 くすくすと笑いながら、彼は言った。

 テレパシーでも使えるんじゃないかと思うほど、わたしの考えていることはお見通しのようだ。

 わたしが分かりやすいのかな。
 こんな調子では、脱走を試みていることまで看破(かんぱ)されてしまいそうだ。

「お手洗い、行かせて……」

「やっぱり? いいよー」

 思いのほかあっさりと許された。

 拘束も解いて貰えるのかな?
 淡い期待を込め、両手を差し出した。

「そっちはだーめ」

 彼はわたしの前に屈み、おもむろにはさみを取り出す。

 思わず怯んでしまうけれど、その刃がわたしに届くことはなかった。

 足首をまとめ上げていた結束バンドが断ち切られる。

 外された今になってその感触が染み込んできた。
 いつの間にか身体の一部となっていたようだ。

「…………」

 その事実に恐ろしさが沸き立つ。

 意思とは無関係に、この状況に順応し始めていたんだ。

「ほら、芽依ちゃん。こっち向いて」

 反射的に顔を上げると、視界が黒くなった。

「わ、何……?」
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