スイート×トキシック
「……何? そんな見られると照れる」
十和くんがどこか居心地悪そうに目を細める。
心臓がざわめく。焦がれていく。
何も言えないでいると、彼はわたしの手からフォークを取って、再び切り分けたケーキを口まで運んでくれた。
大人しくもぐもぐとしているわたしを見て、何となく嬉しそうに微笑んでいる。
穏やかな時間に身を委ねた。
募る想いに心を許して。
「……前にもあったよね、こんなふうに食べさせてくれたこと」
「あー、うん」
十和くんが苦く笑って頷く。
「あのときね、本当は凄く嫌だった」
「あはは、正直だね」
そう言われ、肩をすくめてわたしも笑った。
「だって怖かったんだもん。言うこと聞かなかったら痛い思いするだけだし」
そう言いつつ首を撫でた。
もうそこに赤い痕なんて残っていない。
ふと、十和くんがそんなわたしの手を取った。
やわく握って顔を傾ける。
「……今も怖い?」
推し量るようにその双眸を見つめても、その真意なんて分からなかった。
決して強い力を込められているわけではないのに、逃がしては貰えないだろう圧を感じる。
「…………」
口を噤んだまま俯くように前を向いた。
(怖い、のかな)
でもそれは最初に抱いていたような、十和くん自身に対する恐怖心とは違う。
恐怖心というより不安だ。
それがずっとつきまとって離れない。
これから先のことに対する不安。
終わりが来ることへの不安。
こんなに近くにいるのに、大事なことは何ひとつとして知れていないような不安。
ずきずき、ひりひり、じくじく……。
身体中に刻まれた、癒えたはずの傷が疼き始める。
(どうして)
閉じ込めて消し去った警戒心と怯える気持ちを、痛みが引き連れてくる。
忘れるべきじゃない、とわたしに警告しているみたい。
見て見ぬふりをしようとすればするほど、胸騒ぎが膨らんでいく。
理性と感情がずっと葛藤している。
どこか冷静なわたしは、残ったままの謎と拭いきれない不信感を無視出来ずにいた。
十和くんを信じたい。その想いで蓋をしてしまいたいのに。
彼自身とこの生活に、心の底から酔いしれることが出来たら楽なのに。
わたしには十和くんしかいない。
十和くんと離れたくない。
その気持ちは確かなのに、まだ彼を信じきれていないのかも────。