スイート×トキシック



「……はぁ」

 ため息が聞こえた。

「……!」

 手を掴む力が強くなった。
 ぎり、と爪が食い込むほど。

(痛、った……)

 思わず顔を歪めても、彼は離そうとしない。
 驚いてその顔を見上げれば、不機嫌そうな視線が返ってきた。

「なに迷ってんの? 答えなんて決まってるでしょ」

 責めるような声はいつもより低くて、ぞくりと恐怖心が背中を滑り落ちていく。

 恐怖心────消えてなくなったわけじゃなかったんだ。

 そのことにもびっくりしてしまう。
 じゃあやっぱり、わたしの理性は正しかったのかな。

「ねぇ、楽しい? そうやって俺のこと不安にさせてさ。俺の気持ち、何回言えば分かるの」

「と、十和くん……っ」

 ぎりぎり、と締めつけられた手が痛い。
 爪が突き刺さる。骨が(きし)みそう。

「ひどいね。そんなに信用してないんだ」

「ちが……」

 どうしてそうなるの?
 こうなってしまうの?
 わたしたち、分かり合えたんじゃなかったの?

「違う? だったら言うことがあるよね」

 彼の求めている言葉が、態度が分からないわけじゃなかった。

 でも、わたしはそうしなかった。



「……っ」

 必死によじった腕を引く。
 する、と彼の手を脱した。

「め────」

 わたしを呼びかけた声が途切れる。
 ぎゅ、と繋いだ手にいっそう力を込めたからだ。手錠が甲高い音を立てる。

 彼は、はっとしたようだった。

 呼吸が震えてしまう。なぜか息さえ切れていた。
 責めるようにその目を見たつもりが、泣きそうになってしまう。

「……十和くんこそ、わたしを信じてよ」

 思いきり非難してやろうと思ったのに、強く言えなかった。
 それでも彼は気圧(けお)されたようだ。

「……俺はずっと信じて────」

「だったら分かってよ。ねぇ」

 揺れる瞳をじっと見据えた。

 怖くないかと聞かれれば、正直自分でも分からない。
 彼を信じているつもりだけれど、本当に信じることが出来ているかも自信がない。

 でも、自分の意思で決めた。
 彼のそばにいることを。

 その選択を後悔してはいない。

 十和くんといたい、と思った気持ちは嘘でも勘違いでもない。



「…………」

 ややあって、彼は目を伏せた。
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