スイート×トキシック
「目隠しだよ。悪いけど我慢してね」
耳の辺りに温もりが触れた。彼の指先?
その目隠しとやらはアイマスク型で、ゴム紐の部分を引っかけたのだろう。
ぞく、と背筋が冷えた。
彼の手も温度も怖くてたまらない。
「ふ、可愛い。そんな怯えないでよ」
心臓が早鐘を打っていた。
視界を奪われたせいで、押し込めていたはずの純粋な恐怖心が込み上げてくる。
彼の囁くような甘い言葉も、今のわたしには脅威でしかない。
分からない。見えない。
もしも今、彼がはさみを振りかざしていたら……?
その刃先を心臓に向けられていたら……?
恐ろしい想像に震えていると、ぽん、と両肩に朝倉くんの手が載せられた。
びくりと身体が強張る。
「大丈夫。言ったよね、俺は芽依ちゃんのことが好きなの。ふたりで仲良く暮らしたいだけ」
「そんなの……」
「信じられない? じゃあ証明してあげよっか」
戸惑っているうちに、す、と顎先をすくい取られた。
衣擦れの音がする。
彼の気配が近づいてくるような気がして、見えなくても何となく意図を察した。
「やめて!」
咄嗟に朝倉くんを突き飛ばした。
手錠のせいであまり力が入らない。
視界を遮断されていても正確にそんな手応えがあったところを考えると、わたしの直感は正しかったのだと思う。
朝倉くんは今、わたしに────。
「……残念」
ややあって、彼の低めた声が聞こえた。
それでもまだ余裕が残っていて、半分興がるような声色だ。
はっとした。
もし、今の行動で朝倉くんの機嫌を損ねていたら。
先ほどした残酷な想像が、現実となっていたかもしれない。
いくら自分の身を守るためとはいえ、浅はかだった。
「あ、の」
「行こ。転ぶと危ないから、俺の手離さないでね」
思わず口を開きかけたものの、彼はさして気に留めることなくわたしの手を取った。
怒ってはいない。
そのことに少なからずほっとする。
……この手を掴んでいる限りは、刃を遠ざけられるのかな?
不意にそんな考えが過ぎり、ぎゅっと握り返してしまった。
その感触も温度も相変わらず恐ろしいはずなのに、彼に縋ってしまう矛盾。
割れた鏡の光が反射し合うように、色々な感情が混ざり合っていた。