スイート×トキシック

 くしゃりと彼は顔を歪ませる。

「芽依ー……」

 絡めた指をほどき、(すが)るように抱き寄せられた。
 ふわ、と小さな風が起きてシトラスの香りが漂う。

「大好き」

 惜しみない告白が染みて、ふっと頬が緩んでしまった。
 背中に手を添え、ぽんぽんと優しく撫でる。

 たまに、十和くんが犬みたいに見えるときがある。
 あるいは無邪気な子どもみたいに。
 わたしに弟がいたらこんな感じなのかな?

 そんなふうに見ているわけではないが、ふと思いついてくすりとした。

「わたしも────」

 ついそう言いかけ、慌てて(つぐ)んだ。
 しかし手遅れだった。

「!!」

 はっとした彼が勢いよくわたしを離し、肩を掴んだまま見つめてくる。
 期待の込もった眼差しを(きら)めかせながら。

「わたしも、何?」

 そう聞かれ、鼓動が加速していく。
 絶対に確信犯だ。

「な、何でもない……!」

 火照(ほて)る頬を隠したくて、動揺を誤魔化したくて、少し離れようと身体を(そむ)けた。
 けれど、出来なかった。

 右手は彼と繋いだままだし、それが離れても手錠が逃がしてくれない。

「捕まえちゃった。残念だったね」

 いたずらっぽくにやりと笑う。

「や、やだ。離して」

「どうして? 芽依が自分で“つけて”って言ったんでしょ」

 それはそうだが、まさかこうなるとは思わなかった。

 手を離そうともがいてみても、余計に強い力で握られるだけだ。

「それにさっき言ってくれたじゃん、何でも話してくれるって。俺、芽依の気持ちが分かんないことが不安なんだけどなぁ」

 ……なんてずるいんだろう。
 そう言われてしまうと何も言い返せない。

「ねぇ、教えてよ」

 高鳴る心臓が苦しい。
 きっと真っ赤になっているであろう頬が熱い。
 触れた部分が痺れているみたい。

「……そのうち、ちゃんと言うから……」

「そのうち? それまで俺を不安にさせておくの?」

 いちごより甘酸っぱく切なげな、それでいてクリームより甘ったるい声で尋ねられる。

 わたしは息をつき、半分だけ観念(かんねん)した。

「……もう、分かった。じゃあ────」
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