スイート×トキシック



 ────今日が運命の別れ道なのだと分かる。
 わたしが選択出来る、最後の機会。

 わたしは十和くんが好き。一緒にいたい。
 ここへ留まることを選べば、その望みは叶う。

(でも……)

 手錠をはめて手を繋ぎ、ふたりで外を歩いたときのことを思い出した。

『……これがデート?』

『なに、不満なの?』

『そりゃね! デートって言うならやっぱり可愛い格好したいし、楽しいところに行ったり美味しいもの食べたりしたいよ。堂々と手繋ぎたいし、顔上げて歩きたい』

 そういう普通の幸せは、一生手に出来ない。

 この先わたしに待っていたであろう未来も、当たり前にあったはずの日常も。

 十和くんとの生活を選ぶには、それらをぜんぶ諦めて引き換えにしなくちゃならない。

 ……先生のこと、ワンピースの彼女のこと、服に残された血やあらゆる疑惑を忘れ去って。理性を押し殺して。

 だけど盲目的になって表面だけの平穏を保ち、かりそめの幸せに(ひた)っているだけじゃだめだ。
 そんな中途半端な覚悟じゃ足りない。

 彼を選べば、わたしはきっとここから一生出られないのだから。

 十和くんの抱える“秘密”のすべてを知れなくても、あるいは知っても、許さなくちゃ。
 たとえそれがどんなに残酷なものだとしても。

 彼のすべてを受け入れて、寄り添っていくしかない。
 十和くんを選ぶということはそういうことだ。

(……わたしに出来るのかな)

 何度投げ出そうとしても結局、考えてしまっているのに。今だって。

 心の底から十和くんを信じることが出来ていたら、答えを迷うこともなかったはずなのに。



 そんなことを悶々(もんもん)と考えながら、わたしは食器を洗って片付けた。

 なるべく頭の中を空っぽにしながら、家の中を歩き回ってみる。

 どの部屋にもパソコンや電話機なんかは置いていないようだった。
 通信機器は恐らく、お互いのスマホだけだ。

「わたしの荷物、どこにあるんだろう」

 ふと思い立って呟いた。

 今度は部屋のドアだけじゃなく、クローゼットや収納スペースまで開けて探索してみる。



「あった……」

 最初に脱走を(はか)った夜、駆け込んだ部屋のクローゼットの中。

 そこにあったはずの服は、今は監禁部屋に運び込まれている。
 わたしの鞄だけがぽつんと取り残されていた。
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