スイート×トキシック
どっちつかずの感情は爆発寸前だった。
「芽依……?」
彼は困惑したように足を止める。
わたしの言葉に従ったというより、拒絶するような態度を受けて反射的に止まってしまった感じだった。
「……ごめん。わたしもう、何か色々分かんなくなっちゃって」
身体の強張りを自覚しながら、細い声で言を紡ぐ。
彼の顔すらまともに見られない。
無性に怖くてたまらなかった。
十和くんの望む態度ではないと分かっていても、いつも通りには立ち返れない。
「……そう」
彼からの返答は短かった。
覇気がないことだけは読み取れる。
(まずい、かも)
わたしの態度が気に障ったかもしれない。
不興を買ったら容赦なく牙を剥かれるかもしれない。
さっと青ざめたが遅かった。
「!」
十和くんはさらに踏み込み、1歩、2歩と距離を詰めてくる。
「あのさ」
「……っ」
殺される、と咄嗟に思った。
ゆらりと伸びてきた手が、いつかみたいにわたしの首を絞める、と。
(……あれ?)
そんなことはなかった。
覚悟した痛みも苦しみも訪れず、代わりにあたたかい温もりに包み込まれていた。
恐る恐る目を開ける。
屈んだ彼に抱き締められていた。
触れる手はやっぱり、思いやりに満ちている。
「調子が悪いわけじゃないんだよね?」
困ったような声色だった。
窺うような、探るような。
「何かに怯えてる。……違う?」
心臓がざわめいていた。
恐怖のせいか、彼との距離のせいか分からない。
「また怖い夢でも見た?」
いつもなら寸分違わず見透かすくせに────。
それだけに、彼も彼でわたしの突然の態度変化に不安を覚えていることが分かる。
「……十和くん」
「ん……?」
腕の中におさまりながら、小さく俯く。
「わたしのこと好き?」
「好きだよ」
ぎゅ、とさらに抱き寄せられる。
即答だった。
急にどうして、だとかそんなことは口にしないで、ただひたむきにわたしと向き合ってくれている。
「……それが怖いの? 俺の気持ちが?」
「…………」
ずるい聞き方だと思った。
彼の気持ちがどう怖いと思うのか、自分では口にしない。
十和くんからの想いに自信がなくて不安で怖いのか、十和くんの想いが殺意と紙一重だから怖いのか。
わたしが頷いたら、どう受け取るの?