スイート×トキシック

 せっかく拭ってくれたのに、また涙が込み上げてきた。
 光が溶け合って滲む。

「あー……“泣かせない”って言ったそばから泣かせちゃった」

 十和くんが肩をすくめて笑った。
 わたしはとめどない涙を慌てて拭う。

「ごめ……」

「なに、そんなに不安だったの? 俺、めちゃくちゃ気持ち伝えてたつもりだったけど足りなかったか」

 わたしの頭を撫でながら言った。

 どうやら彼の口にした“怖い”という言葉については、わたしが深読みし過ぎていただけみたいだ。

「ていうか、伝わってるからこそここに残ってくれたんだと思ったんだけど……違ったの?」

 にやりと挑発するように笑い、首を傾げる。

「芽依も俺とおんなじ気持ちでしょ?」

 同じ、と言ってもいいのだろうか。

 確かに種類は同じだと思うが、その質量やベクトルまでまったく同じかと聞かれれば自信がない。

「……十和くんはどう考えてるの?」

 彼の問いに答えられないまま、話題を転換させた。

「何を?」

「これからのこと、とか」

 自分の“罪”についても、わたしたちの生活についても。

「……んー」

「自首、する?」

 ふらりと視線を流した彼を見て思わず言った。

 はっと瞠目(どうもく)し、衝撃を受けたように視線をわたしへ戻す。

 ややあって、その目が細められた。



「……何の罪で?」

 十和くんの態度は、惑っているようにも開き直っているようにも見えた。

 わたしは、すぐには答えられなかった。

 その質問の答えは誰より彼自身がよく分かっているはずだ。

(なのに、わざわざそう聞き返すってことは────)

 わたしの誘拐や監禁だけじゃない。
 それ以外にも心当たりがあるんだ。

 わたしがそれを知っているかどうか探りたいの?
 また、試しているつもり?

(でも、今回ばかりは……十和くんの失敗だ)

 逆にわたしに確信を与えてしまったのだから。

 はびこっていた疑惑が昇華していく。
 黒い(きり)が晴れていくようだ。

 十和くんの秘密が見えた。
 何度も考えた残酷な可能性は、(まご)うことなき真実だったのだ。

(殺したんだ……)

 ワンピースの彼女も、ほかにあった服の持ち主たちも。
 みんな彼が(さら)って、閉じ込めて、殺した。
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