スイート×トキシック
十和くんはただ黙って微笑んでいた。
わたしの言葉をさらに待っているみたい。
不意に心臓が跳ねた。
昨晩の約束が強く意識される。
『明日! 言うから』
その優しげな双眸を見て、また想いがひとひら積もっていく。
(もう逃げられないなぁ……)
わたしの心はすっかり彼のものだ。
今なら勇気を出して伝えられる気がする。
彼に向き直ると、そっと口を開いた。
「わたしね、十和くんのことが好きだよ」
彼からどれほどの愛情を受けても、自信なんて持てなかった。
今まで、こんなふうに誰かと心を通わせたことがなかったから。
いつも失敗してきた。
拒絶され、否定されてきた。
────はじめは彼が憎かった。
わたしは先生のことが好きだったし、一方的な感情でわたしを傷つけて自由を奪った身勝手極まりない十和くんが嫌いだった。
だけど、それはわたしが心を閉ざしていただけに過ぎなかったのだ。
彼の言葉を聞いて、彼に触れて、初めて分かった。
十和くんの想いやその深さ、優しさ、覚悟。
どんなに愛してくれているか、ということ。
彼しかいない。
わたしのすべてを認め、受け入れ、必要としてくれるのは。
「……先生、は?」
ややあって、どこか不安気に尋ねられる。
「好きだったよ」
それもまた事実だ。
今だって嫌いになったわけではない。
恋心が萎んでいって、彼に向ける感情の種類が変わっただけ。
「……ただ遠くから見てるだけで満足だった。それだけで幸せだと思ってたんだけど」
あのときは知らなかった。
好きな人に想われる喜びも幸せも。
それはぜんぶ、十和くんが教えてくれたこと。
心が満たされて、気付かないうちに頬が綻んでいく。
「……十和くんが好きだって言ってくれて嬉しかった。十和くんといて楽しかった。幸せってこういうことなんだって初めて知ったの」
だから、これからも彼と一緒にいたい。
想い想われる、この幸せに浸っていたい。
自由も日常もなくたっていい。
彼が望むなら、一生閉じ込められたままの生活でも構わない。
拘束されたままでも、着せ替え人形でも。
「芽依……」
十和くんの瞳は少し潤んで見える。
わたしの言葉や想いがちゃんと届いたのだと思った。
やっと、本当の意味で分かり合えた気がする。
今なら自信を持って、彼と同じ気持ちだと言える。
愛しさがあふれて止まない。
わたしに触れるとき、十和くんもきっとこんな感情だったんだ。
そんなことを思いながら手を伸ばしたとき、彼は不意に後退した。
まるで避けるように。
(え……)
「嘘つき」