スイート×トキシック

　十和くんはせせら笑う。

　一瞬、何を言われたのか分からなかった。

　あまりに冷たい表情に、冗談を言っているわけではないということは辛うじて分かる。

「“遠くから見てるだけで満足”？　よく言うよ、つきまとってた(、、、、、、、)くせに」

「な……っ」

　思わぬ言葉に目を見張る。

　どくん、どくん、と心臓が嫌な音を立てていた。

　指先が体温を失い、震えてしまう。

「何言ってるの……？　意味分かんない」

　気丈(きじょう)に振る舞おうとしたが、動揺を隠しきれなかった。
　困惑したように笑った頬がひきつってしまう。

　十和くんはそれすら嘲笑い、ポケットから取り出した何かを床にばらまいた。

「……！」

　封筒だった。
　淡い色合い、リボンやレースの可愛らしいデザイン。

　封をしていたシールは乱暴に剥がされていて、紙の部分が破れてしまっていた。

「見覚えあるよね？　ストーカーさん」

　こてん、と首を傾げつつ彼は笑う。

「なん、で……これ……」

　わななく膝から力が抜け、その場にへたり込む。

　顔面蒼白(そうはく)のわたしを眺め、悠然(ゆうぜん)と屈んだ十和くんは封筒のひとつを手に取った。
　ずい、と取り出した中身を目の前に突きつけてくる。

　数十枚と束になった写真だった。
　そこに写っているのは宇佐美先生だ。

　職員室でデスクに向かう姿。
　廊下を歩く姿。
　車に乗り込む姿。
　生徒と談笑する姿。

　ほかにも様々な彼が写真におさまっている。

「これぜーんぶ、芽依が撮ったんでしょ？」

　心臓が早鐘(はやがね)を打っていた。
　喉がからからに渇いて苦しい。

「ほかにもお手紙とか送ってたよね。あ、切った髪とか爪とかっていう愛情たっぷりのプレゼントも」

　床に落ちている封筒の中身を、彼はぴたりと言い当てた。
　封を破ったのは十和くんだったんだ。

　責めるでも咎(とが)めるでもなく、にこにこと柔和(にゅうわ)な笑みをたたえながら、ただ淡々と事実を並べ立てる。

「好きな人にこんなの送るなんてどういう神経？　君の愛情表現、変わってるね」

　視界がぐらぐら揺れた。
　それくらいに衝撃的で、受け止めきれない現実だった。

　いや、夢かもしれない。こんなの悪夢だ。
　目の前にいるのは十和くんじゃない。
　彼はこんなことしない。

「……っ」

　俯いたまま唇を噛み締めた。
　全身の震えが止まらない。

「ねぇ、聞いてる？　……黙ってないで何とか言えよ」