スイート×トキシック
「……本当は喧嘩したの、わたしたち。みんなで集まった日の前日」
「……何で?」
そう聞き返すと彼女は勢いよく顔を上げたが、またすぐに俯いた。
言いづらそうに答える。
「紗奈が“明日、好きな人に告白する”って言うから……。わたしもその人のこと好きなのに」
「え?」
「分かってる、子どもっぽいよね。でもついカッとなってひどいこと色々言っちゃった。あの子、気が弱いから、たぶんそのせいで────」
彼女の安否を誰より気にしていた理由が分かった。
だが、それこそ幼稚と言わざるを得ない結論だろう。
「落ち着け。そんなことで1週間以上も音沙汰がないのは不自然だ」
「“そんなこと”って。元はと言えば颯真のせいで……」
はっとしたように穂乃香は言葉を切ったが、その意味はよく分からなかった。
「何言って────」
「好きなんだよ。わたしも紗奈も、颯真のこと。“好きな人”ってあんたのことなの!」
そう言い、彼女は顔を背ける。
勢い任せに告げられた内容に、しばらく理解が追いつかなかった。
今までまったく気が付かなかった。
「……もういいよ。颯真が行かないならわたしひとりで行くから」
踵を返した彼女を呆然と見送りかけ、はたと我に返る。
「待てって」
慌てて引き止めるが、相当強く決意を固めているらしく一切振り返らなかった。
夜風にワンピースの裾が舞う。
靴音が遠ざかっていく。
俺が彼女を見たのは、それが最後だった。
*
「…………」
シューズロッカーを眺め、ため息をつく。
今日も今日とて封筒が入っていた。ここのところ毎日だ。
また手紙だろうか。
車でひっそり確かめるのも億劫になり、俺はその場で開封した。
「は……?」
中身は手紙ではなかった。写真だ。
束になった1枚1枚を素早く確かめる。
そのどれもが俺を盗撮したもののようだった。
(何だよ、これ)
ぞっとした。
恐怖心と嫌悪感が込み上げ、思わず顔をしかめる。
気味が悪い。
相手の意図がまったく分からない。
俺を困らせ、その様を眺めて楽しんでいるのだろうか。
頭を抱えてしまう。
友人の音信不通、不気味な手紙と盗撮写真────妙なことが立て続けに起きて、何から手をつければいいのか分からなくなる。
(十和……)
手紙については任せてくれ、と頼もしいことを言ってくれたが、進捗はどうなっているのだろう。
(今日、この間の埋め合わせをするか)
帰りに材料を買って彼の家へ寄ろう。
……少し頭の整理もしたい。