スイート×トキシック
(確かに……)
十和の言い分には一理あるように思えた。
得体の知れないストーカーが直接接触してくると考えたら、その方がよっぽど恐ろしい。
「じゃあ、俺はどうすれば────」
「大丈夫! 俺が何とかするからさ」
向けられた笑顔は自信に満ちていて、この上なく心強かった。
だが、どこか圧を感じるほど強い感情が秘められている気がする。
「あ、ああ……。頼む」
「うん! じゃあまたね」
やや気圧されながら頷くと、にこやかに見送られた。
ばたん、と目の前でドアが閉まる。
兄としては情けないが、この件に関しては十和を信じて頼らせて貰おう。
*
放課後になり、校舎内の空気が一気に緩んだ。
はつらつとした表情で部活に向かったり帰路についたりする生徒たちの間を縫って廊下を歩いていく。
「はぁ……」
深々とため息をついてしまう。
陰鬱な気持ちがまとわりついて離れない。
ストーカーは今この瞬間も俺を見ているのだろうか。
常にそんな思考が湧き、どこにいても気を抜けなくなった。
「宇佐美先生、さよならー」
「……ああ、気をつけて」
生徒たちに返す笑みもぎこちなくなる。
目の前にいる生徒こそがストーカー本人かもしれないのだ。
(先生失格だな……)
生徒を信じられなくなったら終わりだろう。
自分を責める気持ちと不安がせめぎ合っていた。
「!」
ふと吹き抜けから下を見下ろすと、十和の姿があった。
誰かと楽しげに話し込んでいる。
(あれは……日下か)
周囲の喧騒に溶け、会話までは聞こえない。
しかし、かなり仲睦まじいように見える。
(いつの間に……)
まったく気付かなかった。
ここのところ十和の態度が妙だったのは恋煩いか?
何となく微笑ましくなり、久しぶりに心安らいだ気がした。
────それからというもの、十和が日下に構う姿をよく目にするようになった。
(うまくいくといいな)
そのたび俺は、密かにそんなことを願っていた。