スイート×トキシック
第2話
日下が行方不明になった。
何かに悩んだり家庭に問題を抱えたりしている素振りはなかったため、家出ではなく何らかの事件に巻き込まれたのではないかと思えてならない。
『ばいばい、先生』
昨日の放課後も何ら変わった様子はなかったのに。
友人たちに続き、彼女までもが消息を絶ってしまった。
いずれも切迫した状況に置かれている可能性を無視出来なくなってきた。
俺でさえこれほど心落ち着かないのに、突如として好きな子が失踪するというとんでもない事態に見舞われた十和は、いったいどれほど不安だろう。
チャイムが鳴る。朝のホームルームの時間だ。
俺は日下の安否と十和の心情を案じながら教室へ入った。
「欠席している日下だが────」
挨拶もそこそこに本題を切り出す。
「昨日から自宅に帰ってないそうだ。今も連絡がつかない」
途端に教室内がざわめき出した。
その困惑や動揺は当然の反応と言える。
家出などの可能性もないわけではないし、余計な不安感を煽るかもしれないため、生徒に伝えるのは早計だとの意見を持つ教員もいた。
だが、親御さんたっての申し出で事情を打ち明けることになったのだ。
少しでも手がかりを得られるなら、と。
「誘拐……ってことすか?」
「まだ分からない」
「えー、怖い。生きてるのかな」
「静かに」
飛び交う憶測や不安を制して続ける。
「どんな些細なことでもいい。何か知っていることがあれば迷わず先生に教えてくれ」
再びざわめきが波紋のように広がり大きくなる。
俺は心配になって十和を見やった。
「…………」
予想に反し、意外にも平然としていた。
頬杖をついたまま退屈そうに宙を眺めている。
(十和……?)
現実逃避でもしているのだろうか。
平気そうに見えるだけで、感情を押し殺しているのかもしれない。
*
警察や日下の両親とともに、学校周辺の捜索に当たった。
退勤時間は過ぎているが、教員も駆り出されていた。
当然だ。
安否も行方も分からない生徒を放ってはおけない。
────しかし、成果はまるで上がらなかった。
時間と体力だけが削られていく。
十和とまともに話すタイミングもないまま、無情にも1週間近くが経ってしまった。
*
朝、職員用の駐車場に車を停めたとき、かたん、とかすかな物音がした。
「?」
後部座席の方からだろうか。
訝しく思いながら車を降り、ドアを開ける。
「これは……」
足元に苺ミルクのペットボトルが転がっていた。
中身はまだ8割以上残っている。
甘いものが苦手な俺が飲むはずもなく、そもそもこんなものを買った記憶もない。
自然と、日下を最後に見かけた放課後のことが思い出された。
あの日、彼女は十和と一緒にいた。
ふたりでこの苺ミルクを飲みながら。
(……どういうことだ?)
それがなぜこんなところにあるのだろう。
十和のものか?
あいつがまた勝手に車を使って置き忘れた?
(後部座席の足元に?)
わざわざそんなところに置くだろうか。
……何だか不自然だ。
妙な胸騒ぎを覚えつつ、ペットボトルをドリンクホルダーに入れておく。
帰ったら処分しよう。