スイート×トキシック
隙のない刑事の眼差しに、さすがに怯みそうになる。
ややあって彼は落胆気味に視線を外した。
「……そうですか。こりゃ難航するな」
懐疑を免れたようで、思わず息をつく。
何だか酸素が薄かった。
────その後も表向き真摯に協力して乗り切る。
それから溜まっていた雑務を無心でこなし、きりがついた頃には20時を回っていた。
すっかり日が暮れ、辺りは真っ暗だ。
俺は駐車場に停めた車の中で、項垂れるようにハンドルに突っ伏していた。
「…………」
ありえない、と思いたかった。
だが、日下の失踪に十和が無関係であると言うには、あまりに“残り香”が強過ぎる。
至るところに痕跡が見え隠れしている。
(なぜ日下を……?)
好きだったんじゃないのか?
それが高じて異常な愛情表現に走ってしまったのか?
(そうなんだとしたら────)
俺の友人たちが音信不通になった件とは、さすがに無関係だよな……?
十和の荷物の中にあった錠剤のシートのことを思い出す。
日下を攫うのに睡眠薬を使った、ということだろう。
あの苺ミルクに混ぜて飲ませ、俺の車を使ってどこかへ運んだ?
(そんなにうまくいくか?)
そもそもあの錠剤がちゃんと溶けるだろうか。
いや、最初からそれが目的なら、あらかじめ砕いて粉状にしていたかもしれない。
いずれにしても睡眠薬を使ったのであれば、手出しするにしてもどこかへ連れ去ってから、と考えていたはずだ。
「急がないと……」
警察より誰より早く、日下を捜し出すしかない。
これまで以上に、本腰を入れて捜索しなければ。
十和が殺人犯になってしまう前に。
誘拐犯として捕まってしまう前に。
俺は急いで車を発進させた。
夜の闇を割って走る。
焦燥感に身を削られる思いだった。
その狭間で切に願う。
(どうか無事でいてくれ、日下)
十和の────俺の大事な弟のために。
「スイート×トキシック」
アナザーストーリー①『溺愛』
【完】