スイート×トキシック
声が震える。
恐ろしくてたまらない。
それなのに、言葉はせきを切ったようにあふれた。
「これ、犯罪だよ……。朝倉くんはわたしに“好き”って言ってくれたけど、こんなことされたってわたしは好きになんてならない!」
後のことなんて考えられず、必死で訴えかける。
「だから、もう────」
見上げると、彼の顔から表情が消えた。
どくん、と心臓が重たい音を立てる。
やばい、と思ったときには、頬が痺れていた。
(え……?)
何が起こったのか分からなかった。
気付いたら目の前に朝倉くんがいて、わたしの首に手をかけていた。
「な……っ」
「芽依ちゃんさ、何言ってんの?」
優しかったはずの彼の目は、滾るように揺らいでいる。
ぐ、と力を込められ、一気に息苦しくなる。
思わず顔を歪めると、朝倉くんは満足そうに笑った。
「ここは俺と君だけの世界だよ。誰にも邪魔させない」
恍惚としてうっとり頬を染めるその表情は、昨日も見たものだった。
わたしに“好き”だと告げてくれたときと同じだ。
「諦めて。どうせ、君は俺を好きになるから」
締め上げられる首が痛い。息が苦しい。
涙の滲む視界で彼を捉えると、どことなく嬉しそうに微笑み返された。
「可愛いね、芽依ちゃん。もっといじめたくなる」
「……やめ、て……」
ただ気恥ずかしくて戸惑うばかりだった甘い言葉の数々にも、今は虫唾が走る。
「……っ」
拘束のせいでうまく抵抗出来ないうちに意識が遠のきかけたけれど、気を失う前に彼の手から解放された。
反射的に思い切り息を吸い込むと、けほけほとむせ返ってしまう。
素早く身体を起こし、後ずさる。
顔が熱かった。
たぶん、うっ血して真っ赤になっていると思う。
「苦しかった? ごめんねー」
心臓が早鐘を打っている。
危うく殺されるところだった。
彼の謝罪は口先だけで、大して悪びれてもいないようだ。
「…………」
打たれた頬がひりひりする。
絞められた首も痛い。
でも、本気で殺そうとしたわけではないのだろう。
それが分かるだけに、余計に恐ろしいし腹が立つ。
つい睨むように見つめると、彼と目が合いそうになって慌てて逸らした。
「もうこんな目に遭いたくないでしょ? だったら大人しくしててね、芽依ちゃん」
もったいぶるようにわたしの名を呼ぶ。
苺ミルクよりも甘ったるい声で────。
(何なの、この人……)