スイート×トキシック
これ以上エスカレートする前に、と続ける。
「出来るのか?」
驚いたように聞き返される。
そう難しいことではない。
「任せといて。……ちょっとやることあるから、それが終わってからになるけど」
颯真にまとわりつく“邪魔者”の存在を思い返す。
大学時代の友人だか何だか知らないが、目障りだ。
ひとりは既に片付けられたが、もうひとりは────。
思考を影が覆い始めたとき、テーブルの上に置いてあった颯真のスマホが鳴った。
はっと我に返る。
(あいつか?)
彼のもうひとりの友人。
この間消した女を執拗に心配しているようだし、そういう意味でも急がないといけない。
「悪い、ちょっと────」
スマホを手に廊下へ出ていく颯真を見送る。
浮かべた笑みを消した。
(めんどくさいけど、さっさとやっちゃお)
手紙のことも気になるし、颯真も迷惑しているみたいだから早く何とかしてあげなきゃ。
(色々とね)
*
俺は早めに学校へ行き、職員玄関を張っていた。
出勤した颯真が靴を履き替え、ほかの先生たちの姿もなくなったのを確かめると、シューズロッカーへ歩み寄る。
(あの手紙……)
あの、丸っこくて可愛い文字。
(なーんか見覚えあるんだよね)
そんなことを考えながら、颯真のシューズロッカーを開けた。
隠し持っていた小型カメラを裏返す。
両面テープの剥離紙を剥がし、ロッカーの奥に貼りつけておいた。
(ま、これではっきりするか)
教室へ向かうと、ちょうど予鈴が鳴った。
席へ向かい、鞄を下ろす。
「はよ、十和」
「おはよー」
何人かの友だちと挨拶を交わしつつ、芽依にも声をかけようとしたとき、彼女が英単語帳を眺めているのに気が付いた。
はっと思い出す。
「待って、今日って水曜日?」
「うん。……あっ、小テストあんじゃん」
友だちも今思い出したように苦い顔になった。
毎週水曜日に実施される英単語の小テストは10点満点で、5点未満だと放課後に再テストを受けなければならない。
(やっば)
すっかり忘れていた。
でも、再テストなんて受けている場合じゃない。
俺は芽依の方に身体を向ける。
「ねぇ、芽依ちゃん。そのノート使ってる?」
机の上に置いてあったそれを指して尋ねる。
“単語ノート”と表紙に書いてある。
「ん? ううん、今は」
「お願い! 見せてくれない?」
「いいよー。ふふ、単語帳忘れたの?」
「ありがと。単語帳っていうか小テストのことすら忘れてた。それどころじゃなくてさ」
快く差し出してくれたノートを受け取りつつ苦笑する。
俺も勉強してこよ、と友だちは席へ戻っていった。
「それどころじゃない、って何かあったの?」
「いや、ううん。ちょっとねー……」
生返事をしつつ、ぱらぱらとページを捲ってみた。
英単語とその意味が、分かりやすく丁寧にまとめられている。
それを見て、ぴんと来た。