スイート×トキシック
(これか)
手紙の字体に対する既視感の正体が分かった。
芽依の字だったのだ。
以前ノートを借りたときに見たんだ。
(芽依ちゃん、ほんとに颯真のこと好きなんだね)
ノートに記された彼女の文字を指先でなぞる。
「……残念だな」
小さく呟くと、芽依が顔を上げた。
「え?」
「何でもない」
くす、といつものように笑っておく。
とりあえず差出人を突き止められただけで充分だ。
焦らず、慎重に、やるべきことを進めていこう。
*
再テストを免れた俺はさっさと帰宅した。
リビングに荷物を置いてから監禁部屋に顔を出す。
俺の姿を見るなり、女はおののいたように身を縮めた。
「そんな怯えなくて大丈夫だよ? 穂乃香さん」
颯真の大学時代からの友だち。
だけど、彼女は颯真のことが好きらしい。
「ごめんなさい……ごめんなさい……。お願い、殺さないで……」
蒼白な顔でそんなことを呪文のように唱え続けている。
笑みをたたえながら歩み寄り、正面に屈んだ。
冷えた頬にそっと手を添えてやる。
「殺さないよ。俺はただ、ふたりで仲良く暮らしたいだけ。そのためにここへ来てもらったんだから」
「え……」
揺れる瞳を捉えつつ、優しく笑いかけた。
「そんな顔しないで。俺、君のこと好きなんだよ。街で見かけて一目惚れしちゃった」
────リビングのソファーで横になっていると、いつの間にか眠りに落ちていた。
かなり疲れているみたいだ。
……無理もないと思う。
前回からほとんど間を置くことなく今回の犯行に及んだ。
それが終わったら、たぶんまたすぐに行動に出なきゃならない。
芽依やあの手紙のことが頭に過ぎった。
「はぁー……」
疲弊してはいるが、下手なミスをしないように細心の注意を払わなければ。
ぼんやりとそんなことを考えたとき、インターホンが鳴った。
「誰ー……?」
こんなときに厄介だな。
重たい身体を起こし、ガムテープ片手にひとまず監禁部屋へ向かう。
「ごめんね、穂乃香さん。ちょっとだけ我慢して」
彼女の口元に、ちぎったテープを貼っておく。
ここぞとばかりに叫ばれたら困る。
玄関へ向かい、ドアを開けた。
「あれ……」
驚いてしまう。
そこに立っていたのは、スーパーの袋を提げた颯真だった。