スイート×トキシック
慌てて制すると、颯真が怪訝な顔をする。
「何でだ?」
「だってそんなことしたら逃げられちゃうよ」
俺がどうにかしなきゃいけないんだ。
送り主の正体もほぼほぼ見当がついているのに。
設置した小型カメラの映像を確認すれば確定させられるのに。
ここでみすみす逃すわけにはいかない。
「ストーカーさんだってそんなんで引き下がるほど単純じゃないだろうし、そしたら今度は直接アプローチしてくるかもよ?」
彼に反対したのは、警察の介入を避けたいという意図もあった。
俺のしていることが不意に明るみに出るかもしれないし、警察とはなるべく関わり合いになりたくない。
「じゃあ、俺はどうすれば────」
「大丈夫! 俺が何とかするからさ」
不安気に呟いた颯真に、強気に言ってのける。
これしき、そう心配するほどのことじゃない。
俺に任せておいて欲しい。
颯真の笑顔を奪うストーカーさんには、ちゃんと痛い目に遭わせてあげるから。
「あ、ああ……。頼む」
「うん! じゃあまたね」
にこやかに手を振って見送った。
颯真が俺を頼ってくれている。
その事実が嬉しくてたまらない。
裁ちばさみを手に廊下を歩いていく。
事情が変わった。
あまり長々と穂乃香に構っている余裕はない。
がちゃ、と監禁部屋のドアを開ける。
彼女は相変わらず怯えた様子で縮こまっていた。
つかつかと歩み寄り、乱暴にテープを剥がす。
「……っ」
「ごめん、気が変わっちゃった」
はさみを逆手に持ち、切っ先を彼女に向けて構える。
俺は浮かべていた笑みを消した。
「あのさ、聞かれたことに正直に答えてくれる?」
「な、何……ですか……?」
「宇佐美颯真────当然だけど知ってるよね。お姉さんさぁ、颯真のこと好き?」
────刃先から血が滴る。
彼女はすぐに動かなくなった。
俺の質問に頷けば暴力でねじ伏せてやり、それに耐えかねて否定した瞬間に用なしとなった。
最後には、突き飛ばしたときに窓の下枠の出っ張りに後頭部を打ちつけて……。
今までよりかなり強引なやり方で終わらせた。
色々と立て込んでいるから仕方がない。
「今日は寝れないなぁ」
さっさと後始末をしなければならない。
夜を徹してやらないと、学校へ行けない。
カメラの回収や確認をしたり、ストーカーから颯真を守ったり、やらなきゃいけないことがたくさんあるのだ。
無用な疑いをかけられないためにも、休む選択肢はない。
*
小花柄のワンピースをハンガーにかけ、クローゼットにしまう。
少し血が飛んでしまっていたが、柄に溶け込むだろう。
「疲れたぁ……」
ばたん、と床に倒れ込んだ。
とんでもない疲労感に襲われる。
普段なら数日に分けて行う作業を十数時間で終えたのだから当たり前だ。
しかもこれで終わりじゃないのだからほんとに骨が折れる。
殺すことそのものより、事後処理の方が大変だったりする。
とはいえひとまず区切りはついた。
スマホで時刻を確かめると朝の7時を回っていた。
「もー、準備しなきゃ」