スイート×トキシック

第3話


 それから本格的につきまとい、彼女の自宅や行動パターンを把握することに成功した。

 平日はほとんど寄り道することなくまっすぐ帰宅。

 休みの日はだいたい家にいるみたいだが、ひとりでカフェなんかに出かけたりもするようだ。

 彼氏はいない。
 ……颯真のことが好きなのだから当たり前だけれど。

 学校では購買で買ったワッフルなんかをよく友だちと食べている。
 甘いものが好きみたい。

 あとは自販機の苺ミルクがお気に入りなようだ。
 睡眠薬を盛るならそれだろうか。

(俺のことは警戒してないし、難しくなさそう)

 ストーカーより陰湿(いんしつ)なストーカー行為を続けつつ、颯真が見る前にシューズロッカーの封筒を回収する日々……。

 芽依を(さら)う隙を虎視眈々(こしたんたん)と窺っていた。



*



 ある日の放課後、ついにチャンスが訪れた。

 自販機横にひとりきりの彼女。
 窓に向かったままぼんやりとしている。

 その視線の先は中庭のさらに向こうにある職員室前の廊下。
 颯真とクラスの女の子が何やら話していた。

「…………」

 少し前、嫉妬心を高ぶらせてシャーペンの芯を折っていた芽依の様子を思い出す。

 やきもちを焼くと彼女は周りが見えなくなる。
 冷静じゃなくなる。

(……やれる)

 ひっそりとほくそ笑み、たった今偶然気が付いたみたいに歩み寄った。



「あれ、芽依ちゃん」

 はっとして彼女は振り返る。

「帰んないの? あ、もしかして俺を待っててくれたとか?」

 からかうように笑いかけると、芽依が肩をすくめる。

「そんなわけないでしょー。ちょっと休憩してただけだよ」

「なんだ、一緒に帰れるかと思って期待したのに」

 すねたふりをして自販機の方へ歩み寄る。
 何それ、と笑われた。

 あらかじめ買っておいた苺ミルクに、先んじて薬を溶かしておいてもよかった。

 でも下手に勘繰(かんぐ)られたり、飲むのを後回しにされたりしても困る。
 今この場で飲ませないといけない。

 ここで買ってすぐのものなら、尚さら警戒には値しないはずだと踏んだ。
 より確実に仕掛けないと。

 ポケットからジップつきの小さな袋を取り出しておく。
 そこには砕いて粉状にした睡眠薬が入っている。

 いつ機会が訪れてもいいように、ここのところずっと持ち歩いていた。

 小銭を入れ、ボタンを押した。
 がたん、と音がしてペットボトルが落ちてくる。

 彼女の意識は窓の向こう側に向いているか、少なくとも俺のことは気にも留めていない。

 そう考えながらも芽依の視線の方向には注意を払いつつ、自分の身体で死角を作りながらペットボトルを開けた。
 手早く袋の中身を流し込む。

 きゅ、となるべくきつくキャップを締め直した。

(……まぁ、別に緩いことがバレても開けてあげたことにすればいっか)

 なんて思いながら、帰り支度を整えていた彼女に声をかける。

「芽依ちゃん」
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