スイート×トキシック
意味、分かんない。
気持ちが悪い。
怖い。
そんな思いが溶け合ってどろどろになる。
わたしの心を得られると自信満々に信じて疑っていないようだけれど、今のところは真逆の感情しか湧かない。
濃い不快感と嫌悪感、いつしか根づいた恐怖。
どんなに見た目がよくたって、好きになる要素は皆無だ。
わたしの日常を奪い、命まで脅かす────憎むべき存在でしかない。
おもむろに立ち上がった朝倉くんはドアの方へ歩み寄り、ひらひらと手を振る。
「じゃあ、今度こそ行ってくるから。またあとでね」
彼の双眸は冷ややかで、高圧的で、念を押すようでもあった。
「…………はい」
こく、と俯くように頷く。
彼の隠し持った凶暴性を目の当たりにした以上、ここは屈してでも“大人しく”という言葉に従っておくべきだと思った。
彼が部屋から出ていく。
廊下を歩いていく音が遠ざかる。
やがて玄関のドアが開いて、閉まった。
「…………」
ぎゅう、と強く拳を握り締める。
ちゃり、と鎖が鳴った。
それから完全な静寂が訪れると、わたしはうずくまるようにして床に倒れ込む。
まだ、首がひりついている。
指先で触れてみると、血がついた。
彼の爪が食い込んで傷ついたのだろう。
息が震えた。呼吸が浅くなる。
やるせない気持ちから込み上げた涙が滲んであふれた。
「う……っ」
伝い流れていく雫が熱くて染みる。
一度泣いてしまうと、感情が爆発した。
(何で……?)
どうしてわたしがこんな目に遭わなきゃいけないんだろう。
好意が人を地獄に突き落とすこともあるなんて、知らなかった。
決してわたしのせいじゃない。
何も悪いことなんてしていないのに、どうして────。
*
しばらく泣いて、唐突に感情が凪いだ。
ほとんど放心状態で、寝転がったままぼんやりと宙を眺める。
涙が止まっただけで、平静を取り戻したわけではなかった。
霞がかった頭では思考も捗らない。
水槽の中にいるみたいだ。
外が遠くて、音がくぐもって、わたしはただ沈んでいる。
「…………」
のそ、と力なく起き上がる。
ほとんど無意識的に、ビニール袋に手を伸ばしていた。
喉が渇いた。
お腹がすいた。
ふと、朝倉くんの言葉が蘇る。
『疑い深い芽依ちゃんにもう一度教えてあげる。毒も薬も何も入ってないよ』