スイート×トキシック
「あれ? お前ら……」
不意に声をかけられ、驚いた。
声の主が颯真だったから尚さらびっくりした。
「先生」
芽依の声が硬くなる。
俺といるとこ、見られたくないんだ。
俺も一緒にいるとこ、今は見られたくなかった。
「やっほー。先生も飲む?」
内心の動揺をひた隠しに、普段通りを装って首を傾げる。
大丈夫、と自分を納得させる。
このあと芽依が消えたって、颯真には俺を疑えない。
何ならいっそ、バレたっていい。彼になら。
颯真のためにしていることなんだから。
(喜んでくれるはず、だよね)
これから俺がしようとしていることや思惑なんて知る由もない颯真に、特別何かを訝しむ様子はない。
「遠慮しとく。俺は甘いの苦手だから」
「そっかー」
知ってる、と心の中でつけ足す。
昔からそうだ。
「そもそもお前の飲みかけだろ、それ」
「えー、何か問題ある?」
くす、と思わず笑ってしまった。
兄弟なんだから別にいいだろうに。
なんて、普段はその関係性を呪っているくせに都合がいいなぁ。
我ながらそう思った。
────その場は何とか無難に乗りきることが出来た。
まさか颯真に声をかけられるなんて想定外だったけれど。
再び芽依とふたりになると、昇降口の辺りで足を止める。
「ごめん、忘れものしちゃった。先行ってて」
一緒に学校を出る瞬間を防犯カメラの映像に残さないため、そして車を動かす時間を稼ぐため、俺は嘘をついた。
「え?」
「校門出たとこの木の下で待っててくれる? すぐ追いつく」
カメラの死角部分へ誘導してから、踵を返して駆けていくふりをする。
実際には彼女が校門へ向かうのを見届けてから、俺も昇降口を出て反対方向に向かっていた。
道すがら鞄の中からパーカーを取り出して羽織る。
職員駐車場へ出るタイミングでフードを被った。
ここは校舎内からの視認性は低いが、カメラによる死角はほとんどない。
芽依が行方不明になったら、事件性を疑った警察が防犯カメラ映像を確認しに来るかもしれない。
俺が映っていても、俺だと分からないようにしなくちゃならない。
不審なフード男が颯真の車に乗る姿が映ってしまうが、それが颯真だとは思われないだろう。
校舎内にいる彼には目撃情報もアリバイもある。
俺は勝手に持ち出したスペアキーを使って颯真の車を動かした。
再び時刻を確かめる。
(芽依ちゃんが薬飲んでから……もうすぐ15分)
きっと既に何らかの効果が現れ始めているだろう。
近場に車を停め、急いで学校へと戻った。