スイート×トキシック

　十和(とわ)くんが殺人犯だったと気が付いてから一夜明けた。

　彼がそのことを自ら打ち明けてくれようとくれまいと、わたしの選択は変わらない。

　この先もずっと、ここで生きていきたい。
　十和くんと一緒に。



　制服に着替えたわたしはクローゼットを開けた。

　ハンガーのまま、かけられている服を床に落としていく。
　瞬く間に小さな山が出来上がった。

「……何してるの？」

　開けっ放しになっていたドアの戸枠部分から、十和くんが声をかけてきた。

「捨てて欲しいの、これぜんぶ」

「え、でも芽依(めい)のために────」

　困惑気味に部屋へ足を踏み入れてくる。

「いいから、もう。そんな嘘つかないで」

　はっきりそう言ってのけると、彼は驚いたような顔をした。
　すぐに力を抜き、やわく笑う。

「……そっか、そうだよね。もう分かってるよね」

　……分かっている。
　これらは彼の罪の証。

　しかし、わたしには最早その罪を立証する気なんてなかった。
　捕まって欲しくない、と切に思う。

　何より過去の恋を早く忘れて欲しかった。
　自分以外の女の子の気配と共存するなんて耐えられない。

「…………」

　わたしは一度俯いた。

　今日という分岐点を迎えるまで、ずっと迷っていたことがある。

　十和くんの愛情を一身(いっしん)に受けて幸せを感じても、その傍(かたわ)らで常に気にかかっていた過去があった。

「……芽依？」

　本当のわたしを知ったら、彼もまた軽蔑(けいべつ)するだろうか。

　怖い。怖くてたまらない。
　十和くんの心を失うかもしれないと思うと、足がすくむ思いだ。

(でも、このままじゃだめ)

　隠しごとがあるのはお互いさまだ。
　だけど、このまま黙っていたら欺(あざむ)いているのと変わらない。

　十和くんを信じると言うのなら、せめてわたしはすべてを打ち明けるべきだろう。

「あのね……」

「ん？」

「十和くんに言ってなかったことがある」



　　　　　◇　◇　◇



　意を決したような声色とは裏腹に、芽依の表情は不安気だった。

「どんなこと？」

　今さら何を言うつもりなのだろう。
　俺は裁ちばさみを隠し持ったまま、彼女の方へ歩み寄った。

「その、えっと……」

「……なに、そんな言いづらいこと？」

　躊躇(ちゅうちょ)が拭いきれないのか、言い淀(よど)んでなかなか続きを口にしない。
　俺は優しい微笑を貼りつけた。

「大丈夫だから言って。何でも受け止めるから」