スイート×トキシック
疑い続ける余裕も、いつまでも突っぱねていられる意地も、すっかり喪失していた。
紛れもなく、ここは水槽の中なのだから。
わたしは飼われた小さな魚に過ぎない。
餌を与えるも、生かすも殺すも、朝倉くん次第だ。
囚われた魚には、逃げ出す力も自ら餌を得る術もない。
不確かな外の世界へ飛び出したら、保証された最低限の安全を損なうことになるかもしれない。
水を失って息が出来ずに死んでしまう魚みたいに、わたしも……。
ペットボトルのキャップを捻った。
やりづらくはあるけれど、かちっと手応えを経て開けることが出来た。
昨日の苺ミルクとは違い、確かに新品だと分かる。
ぐい、とお茶を呷った。
慣れ親しんだ味がする。
何度も飲んだことがある。
その事実が少なからず、不安を拭ってくれた。
おにぎりの包装を破って、ひとくちかじってみる。
こちらも新品というか、特に手を加えた形跡はないように見えた。
最初は希望的観測を混じえてそう思ったけれど、頭の霧が晴れてくると冷静に分析出来た。
すぐに死に至るような薬も毒も、入っていないはずだ。
少なくとも今の段階では。
彼にわたしへの殺意があるのなら、こんなところへ誘拐して監禁する、なんて回りくどいことはしない。
外で殺すよりよっぽどリスキーな気がする。
“二人で暮らそう”という言葉と告白が本物なら、尚さら殺される可能性は低いように思う。
(そうだよ……)
今すぐ殺すつもりなら、とっくにやられている。
今朝、首を絞められたときに死んでいたはずだ。
────ただ、彼に向けられた想いを全面的に信じることが出来ないのも確かだった。
そもそも監禁なんて行動に及んでいる時点で異常なのは間違いないけれど、普通、好きな人に暴力なんて振るうたろうか。
確かにそういう人が一定数存在していることは知っている。
もしかして、朝倉くんもそうなの……?
わたしに警告するように、首元の傷がひりひりと疼いた。
殺されはしなくても、今朝のような暴力を受ける可能性が大いにあるということだ。
首を絞められ、死の一歩手前を味わわされた。
そこまでのことをするのに、一切の抵抗感も罪悪感もないのだろう。
朝倉くんがそういう狂った人物なら、やっぱり彼の恋心は命を保証してくれない。
散々暴力を受けた挙句、最終的には殺されてしまうかもしれない。