スイート×トキシック
「それ、は……」
怯んで口を噤む。
いくら心を通わせたって、問題は山積みなのだ。
ふたりでの生活を続けるにしても、一筋縄じゃいかない。
俺が誘拐犯で殺人犯なのは事実だし、芽依は結局外に出られない。
関係性の名前が変わるだけ。
だけど、犯人と被害者という関係を上書き出来るわけでもない。
いつまでもこのままではいられないのだ。
分かっていたはずなのに、目先の幸せを優先してしまった。
唇を噛む。
こんな危うい生活は続けられない。
俺の罪が明るみに出たとき、芽依を巻き込みたくない。
本当に彼女を想うなら────俺は自首するべきなのだろう。
罪は消えない。罰は免れない。
今までしてきたことを考えれば、死で償っても足りないかもしれない。
颯真への愛を貫いた結果がそれでも、間違っていたとは思わない。
でも、法には逆らえないから。
怖いのは“死”そのものじゃない。
芽依を失うことで訪れる孤独だ。
彼女を不幸にしてしまうことだ。
俺にのしかかる孤独や罰は当然の報いなのだから、甘んじて受け入れるしかない。
(でも、芽依だけは……守らなきゃ)
毅然として顔を上げ、彼女の手を取った。
「警察行こ」
「え……っ」
戸惑う芽依の手を引いて立ち上がり、ドアの方へ引っ張っていく。
こうするしかない。
ここに閉じ込め続けて芽依の未来を奪う権利なんて、俺にはないのだから。
「ま、待ってよ」
困惑する声が胸を刺す。
これも俺のエゴを押しつけているだけなのかもしれない。
悔やまれる。
この選択をするなら、もっと早くにするべきだった。
そうしたら、芽依の気持ちを一度受け入れた上で突き放すなんて酷なことはしないで済んだのに。
負う傷も負わせる傷も、もっと浅く済んだはず。
余計な葛藤で心を煩わせることもなかったはず。
(ていうか、そもそも……)
俺が芽依をここへ連れてこなければ。
彼女の颯真への想いに気付かなければ。
彼女と出会わなければ……。
(じゃなくて、もっと早く出会っていたら────)
「待って!」
ぐい、と芽依に押しとどめられ、足が止まる。
振りほどこうと思えば出来る。
力じゃ彼女は敵わないから。
でもそうしなかったのは、そう出来なかったのは……また俺のエゴだ。