スイート×トキシック
構造という意味でもそうだが、状況の方が気になっていた。
わたしの失踪はニュースになっているのだろうか。
きっと、両親は心配してくれている。
先生だって……。
不意に、最後に会った放課後のことを思い出した。
『また明日』
そう言ってくれたのに、その“明日”は来なかった。
学校へ行って先生と顔を合わせることが、当たり前じゃなくなって。
“明日”が昨日になった。
夜が明ければ一昨日になってしまう。
わたし、いつまでここにいるんだろう……?
「……っ」
じわ、と涙が滲んだ。
朝の白い光と溶け合い、視界が揺らめく。
もう二度と、先生にも会えないのかな。
そう思った瞬間、ひどく心が震えた。
そんなの嫌だ。絶対に嫌。
早くここから出ないと────。
これ以上、今日が過去に変わる前に。
起き上がったわたしは涙を拭った。
泣いて打ちひしがれている場合じゃない。
(朝倉くんを出し抜いて、逃げ出す策を練らなきゃ)
手錠と結束バンドを眺めた。
鍵がないと外せない手錠とは違って、結束バンドなら力ずくで外せるかもしれない。
わずかな可能性に縋ったものの、駄目だった。
輪から脚を抜こうとしてみたり、バンドを引っ張ってみたりしたけれど、ぴったり密着していて余地がないのだ。
拘束を自力で解くのは諦め、わたしはドアに寄った。
掴まれば立ち上がれないことはないが、弱っていることも相まって、両足をまとめ上げられているせいで身体を支えきれない。
その場に膝立ちになり、ドアの取っ手を引いた。
当然のように手応えがあり、鍵がかけられていると分かる。
そのことにはいちいち落胆しない。既に確かめたから知っている。
わたしはそのまま力を込め、思い切り引いた。
「駄目かぁ……」
鍵を壊す勢いで取っ手を強く引っ張ったけれど、無情にもびくともしなかった。
このドアを無理矢理突破出来るような道具もないし、その方法は現実的ではないような気がする。
(やっぱり……)
チャンスは、この部屋を出るタイミングだろう。
そのときであれば拘束も解いて貰える。
お手洗いに行くときはどうだろう?
手錠をされていても目隠しを外すことは出来るはずだけれど────。
「お風呂は……?」
ふと思いついて呟いた。
入浴となれば、手錠をしたままでは無理だ。
もしかすると、手足の両方の拘束を解いて貰えるかもしれない。