スイート×トキシック

 跳ねる心臓をおさえるように息をつくと、わたしは鍵を開けた。
 勢いよくドアを開ける。

 壁に背を預けながらスマホをいじっていた朝倉くんが、驚いたように顔をもたげた。

「芽依────」

 目隠しをしていないことに気がついた彼が言い終わらないうちに、握り締めていたそれを思い切り投げつけた。

「わ」

 その隙に、わたしは駆け出した。

 間取りなんて分からなかっだけれど、足を止めることは死を意味するような気がした。

 真っ暗な中、探り探りで進んでいく。

 壁にぶつかったりしながら、勘を頼りに玄関を探した。

「ちょっと、芽依ちゃん……!」

 いつもより余裕を失った朝倉くんの声には、苛立ちが混じっていた。
 一瞬にして昨日の朝の記憶が蘇ってくる。

 かさぶたになったはずの首元の傷がひりついた。

 捕まったら終わりだと、如実(にょじつ)に訴えかけてくる。

「かくれんぼとか、俺好きじゃないんだけど」

 生まれたての小鹿より頼りない足取りで手当り次第に突き進み、適当な部屋へ転がり込んだ。

 いざ動き出してから、浅はかだったと後悔してしまう。

 お手洗いから出たとき、もっとよく確認しておくべきだった。

 仮にここがマンションならば、玄関は目と鼻の先にあったはずだ。
 大抵はそういう間取りだから……。

 焦っていたせいで、随分と視野が狭くなっていた。

 玄関を探すより、朝倉くんから遠ざかることを優先してしまった。

 わたしが今、玄関側に来られていないということは、朝倉くんは玄関前で待ち構えていればいいだけ────袋小路(ふくろこうじ)だ。

 このまま見つからずにやり過ごせても、彼を動かさないことには、玄関から外へ出られない。



(どうしよう……。どうしたら動いてくれる?)

 きん、と張り詰めた空気に自分の速い心音が響いていた。

 息を殺しながら、必死で頭を働かせる。

 顔を上げ、周囲を見回した。
 だいぶ暗闇に目が慣れ、ここが洋室であることが分かった。

 わたしの閉じ込められている部屋とは別だ。

(何かないかな……)

 見たところ、部屋の中にはタンスと姿見(すがたみ)が置いてあるだけですっきりとしている。

 そっとクローゼットを開けてみた。

「何、これ」
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