スイート×トキシック
思わず駆け寄り、取っ手を掴んだ。
しかし、がちゃがちゃと手応えに阻まれて動かない。
(鍵……!)
気が急いてしまうのをおさえられないまま、わたしは慌ただしくサムターンを回す。
そして再び取っ手に手をかけたが、ドアは開かなかった。
「何で……!?」
すっかり混乱した頭は現状の理解を拒んだ。
わけが分からなかった。
出口は目の前にあるのに、固く閉ざされている────。
激流のような感情がもどかしさと怒りを運び、当惑するわたしの目に涙が滲んだ。
諦めきれないで開かないドアと格闘していると、不意に背後から現れた気配に包み込まれた。
「……っ」
「なーんてね。芽依ちゃん、捕まえた」
朝倉くんに抱き締められている、と分かった途端、背筋を悪寒が這っていった。
今は確かに恐怖が勝っている。
「な……」
「俺から逃げられると思った?」
先ほどの追い詰められたような素振りは微塵もない。
勝ち誇ったように笑われ、わたしは動揺を隠せなかった。
「ほら」
ぱち、と電気がつけられた。
そこで初めて、ドアの全貌を目の当たりにした。
「な、に……これ」
瞠目した瞳が揺れるのを自覚する。
声が震えた。
玄関のドアにはいくつものチェーンが取りつけられていた。
上から下まで、つけられるだけぜんぶつけた、といった具合でがんじがらめにされている。
鋭い銀色の光が異様で、常軌を逸した彼の不気味さを物語っているようだった。
(狂ってる……)
気圧されて血の気が引いていく感覚を覚える。
目眩がした。
「あとはね、これ」
回された彼の腕が動き、その手に持った何かを提示してきた。
小さな鍵のようだ。
「補助錠だよ。これがなければ、いくらサムターンを回したところでドアは開かないの」
愕然として力が抜けそうになった。
すんでのところで理性が働き、踏みとどまる。
もう二度と、彼に抱きとめられるのはごめんだ。
(そういう、こと……)
一瞬にして何もかもを理解した。
朝倉くんは別に、わたしの作戦にはまったわけじゃなかったんだ。
最初から────わたしに騙されたふりをしてわざと玄関ホールから離れて、この逃げ道のない現実を突きつけて、絶望させて嘲笑う気だったんだ。
考えてみれば、ここまで用意周到で鋭い彼が、わたしの行き当たりばったりな嘘ひとつに惑わされるわけがなかった。
スマホの管理だって徹底しているはずだ。
(だからそんなに余裕なんだ……)
わたしに逃げられない自信があるから。
そのための策を徹底しているから。