スイート×トキシック
(あれ……?)
何だか、キャップが緩いような気がした。
気のせいだろうか。
それとも朝倉くんが気を遣って開けてくれたのかな。
そんなことを考えながら、苺ミルクに口をつけた。
甘い風味と味が広がり、強張っていた気持ちがいくらかほどける。
「久しぶりに飲むと美味しいかも。でもこんなに甘かったっけ?」
ぺろ、と舌を出す朝倉くんに苦笑を返しつつ答える。
「甘くて美味しいよね。わたし、いちご味って好きなんだ。苺ミルクもそうだし、お菓子とかも」
「へぇ、そうなの? 覚えとくね」
それは慈しむように優しい声色で、思わず朝倉くんの方を見た。
目が合うと、彼は顔を傾ける。
「ねぇ、一緒に帰ろうよ。もっと芽依ちゃんのこと教えて」
図らずも少し、心が揺れた。
意味ありげな微笑みのせいかもしれない。
気付けば、こくりと頷いていた。
どこか満足気に笑みを深める朝倉くん。
彼のまとう雰囲気に、少しずつ飲み込まれていくような気がする────。
「あれ? お前ら……」
不意に声をかけられ、振り向いた。
先ほどまでガラスと中庭越しに見ていた、宇佐美先生がいた。
「先生」
思わず、背に苺ミルクを隠してしまう。
舌の上がざらついた。
「やっほー。先生も飲む?」
朝倉くんが自身のペットボトルを掲げて首を傾げる。
「遠慮しとく。俺は甘いの苦手だから」
「そっかー」
「そもそもお前の飲みかけだろ、それ」
「えー、何か問題ある?」
彼はくすくすと楽しそうに笑った。
目の前で繰り広げられる軽快なやり取りを、わたしはただ黙って聞いていた。
朝倉くん、先生とも仲いいんだ。
本当に誰とでも親しいフレンドリーな人なんだな。
「いいからもう早く帰れ。日下も」
「!」
突然呼ばれた苗字と向けられた視線に心臓が跳ねた。
頬が緩みそうになるのを引き締めながら「はい」と頷く。
「先生、じゃーね」
「気をつけて帰れよ。それと、言葉遣いな」
ひらひらと手を振る朝倉くんを先生がたしなめる。
わたしは会釈して歩いていこうとしたけれど、つい足を止めた。
くるりと振り向く。