スイート×トキシック

(あれ……?)

 何だか、キャップが緩いような気がした。

 気のせいだろうか。
 それとも朝倉くんが気を遣って開けてくれたのかな。

 そんなことを考えながら、苺ミルクに口をつけた。
 甘い風味と味が広がり、強張(こわば)っていた気持ちがいくらかほどける。

「久しぶりに飲むと美味しいかも。でもこんなに甘かったっけ?」

 ぺろ、と舌を出す朝倉くんに苦笑を返しつつ答える。

「甘くて美味しいよね。わたし、いちご味って好きなんだ。苺ミルクもそうだし、お菓子とかも」

「へぇ、そうなの? 覚えとくね」

 それは(いつく)しむように優しい声色で、思わず朝倉くんの方を見た。
 目が合うと、彼は顔を傾ける。

「ねぇ、一緒に帰ろうよ。もっと芽依ちゃんのこと教えて」

 図らずも少し、心が揺れた。
 意味ありげな微笑みのせいかもしれない。

 気付けば、こくりと頷いていた。
 どこか満足気に笑みを深める朝倉くん。

 彼のまとう雰囲気に、少しずつ飲み込まれていくような気がする────。



「あれ? お前ら……」

 不意に声をかけられ、振り向いた。

 先ほどまでガラスと中庭越しに見ていた、宇佐美先生がいた。

「先生」

 思わず、背に苺ミルクを隠してしまう。
 舌の上がざらついた。

「やっほー。先生も飲む?」

 朝倉くんが自身のペットボトルを掲げて首を傾げる。

「遠慮しとく。俺は甘いの苦手だから」

「そっかー」

「そもそもお前の飲みかけだろ、それ」

「えー、何か問題ある?」

 彼はくすくすと楽しそうに笑った。
 目の前で繰り広げられる軽快なやり取りを、わたしはただ黙って聞いていた。

 朝倉くん、先生とも仲いいんだ。
 本当に誰とでも親しいフレンドリーな人なんだな。

「いいからもう早く帰れ。日下も」

「!」

 突然呼ばれた苗字と向けられた視線に心臓が跳ねた。
 頬が緩みそうになるのを引き締めながら「はい」と頷く。

「先生、じゃーね」

「気をつけて帰れよ。それと、言葉遣いな」

 ひらひらと手を振る朝倉くんを先生がたしなめる。

 わたしは会釈して歩いていこうとしたけれど、つい足を止めた。
 くるりと振り向く。
< 3 / 187 >

この作品をシェア

pagetop