スイート×トキシック

 彼は意外そうな表情になった後、再び笑みをたたえた。
 今度はどこか嬉しそうな笑顔だった。

「積極的だね。嬉しいなー、芽依ちゃんも俺のこと意識してくれてるんだ」

 こんな状況で気に留めないでいられる方がおかしい。

 異性として、という意味なら、決してそういうわけじゃないけれど何も言わないでおく。

「いいよ、話そ。何を聞きたいの?」

 十和くんはわたしのそばへ来て床に座った。
 近寄られると思わず怯んでしまうが、表に出さないよう努める。

「えっと……」

 そう問われると返事に困った。

 聞きたいことは色々あるけれど、何が地雷になるか分からない。
 彼の警戒心を煽って不信感を買うのもごめんだ。



 慎重に言葉を探しているうち、どうしても気になったことが口をついた。

「わたしのどこが好きなの?」

 最初から分からなかった。
 女の子なんて()り取りみどりのはずなのに、どうしてわたしなんだろう?

 わたしより美人な子だって、頭のいい子だって、スタイルのいい子だって、明るい子だって、優しい子だって、魅力的な子はきっとたくさんいるはずなのに。

 怪訝(けげん)な表情を浮かべるわたしに、十和くんは柔らかい笑顔を向けた。

「ぜんぶ好き」

 頬杖(ほおづえ)をつくような姿勢でとろけるように笑う。

「……!」

 さすがに照れくさくて、頬が熱を帯びた。
 こんなにも躊躇いなく直球に想いを告げられたのは初めてだ。

「その可愛い顔も、綺麗な髪も、背が低くて華奢(きゃしゃ)なところも、ふわふわして見えるのに芯があるところも、ころころ変わる感情を隠せないところも、一途(いちず)で粘り強いところも」

 十和くんは目を細める。

「いちご味が好きなとこも、もうぜーんぶ好きだよ」

 驚いてしまった。
 わたしのこと、そんなふうに見ていてくれたんだ。

 客観的な自分を知る機会なんてそうないし、そんなにもうっとり語られると気恥ずかしい。

 “わたしなんかのことが本当に好きなのかな”。
 “誰でもよかったんじゃないのかな”。

 あまりに具体的な言葉が並んだから、そう疑うことも出来なくなった。

 未だに信じがたいが、十和くんの想いは本物なんだ。
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