スイート×トキシック

「…………」

 ふと十和くんが少しの間黙り込み、じっとわたしを見つめていた。

(な、何……?)

 真意が分からなくて、戸惑いを隠せないままその眼差しを受け止める。

 自然に出来るようになったと思っていた作り笑いが、偽物だとバレてしまったのかもしれない。

 それは彼の反感を買うには充分で、せっかく手に入れた快適さを手放すことを意味する。

 沈黙があまりに重く、わたしの心臓は早鐘(はやがね)を打っていた。

 彼とまともに話せるようになっても、根づいた恐怖と嫌悪感から怯えてしまう。

 常に息を殺し、超えてはいけないラインを見極めるのに必死だった。

 ややあって十和くんは、謹厳(きんげん)な面持ちのまま口を開いた。

「芽依ちゃんって、そんなふうに笑うっけ」

「……!」

 表情も声色も特別なかったけれど、怒りや冷たさを含んでいるわけじゃなかった。

 意図的にニュートラルな雰囲気を(かも)し出し、わたしの受け取り方にすべて委ねているのだと分かる。
 わたしの反応を試している。

 彼の意に沿わない何かを企んでいること、笑顔が嘘だということ、見えないように閉じ込めたはずの本心を、疑われているのだろうか。



「……変、だった?」

 肯定するのもわざとらしいような気がして、わたしは困ったように笑いながら聞き返す。

 一拍置いて十和くんの唇が()を描いた。
 満足そうな微笑みだった。

「全然。可愛いなぁって思っただけ」

 彼は彼で、やっぱり本心が見えない。

 本気でそう思っているのか、わたしの感情を見透かした上で嘲笑っているのか。

 そんなことを考えているうちに十和くんの双眸(そうぼう)から解放される。
 彼はお菓子の袋をひとつ手に取った。

「嬉しいなぁ。芽依ちゃん、最近よく笑ってくれるから」

 淡いピンク色でコーティングされたチョコレートを差し出される。

 いちご味の、わたしの好きなお菓子なのに、今は禍々(まがまが)しく感じられた。

 それでも“拒む”という選択肢はないに等しく、わたしは彼の持つそれを口に含む。
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