スイート×トキシック
しかし、どこに置いているのだろう。
絶対に、彼の直接の監視下に決まっているけれど。
それはつまり、奪うどころか手にすることさえ、わたしには不可能なのではないだろうか。
順調だと思っていたのに、気付けば目の前は暗闇に覆われていた。
あらゆる感情をおさえて、こらえて、壁を崩したのに、わたしは目的に近づけてもいないの?
ぜんぶ、十和くんの思惑通りなの?
「もう、どうしたらいいの……」
嘆くように呟いて思わず頭を抱えたとき、ふと違和感を覚えて手首を見た。
(あれ?)
何だか以前より、手錠が緩いような気がする。
輪と手首の隙間が広く感じる。
(気のせい……じゃないよね)
これだけ長いこと手錠と生活をともにしてきたのだ。
その変化に気付かないはずもない。
十和くんが意図的に緩めたのだろうか。
でも、そんなことをする理由が分からない。
だとしたら────飲まず食わずを強いられていたことで、少し痩せたのかもしれない。
地獄でしかなかったけれど、まさかこんな形で結果が現れるとは……。
(でも、手が通るほどじゃない)
確かに手錠は緩いのだが、抜け出せるほどの余裕はない。
それでも“糸口”にはなった。
つまり、食事を拒んで痩せれば拘束を脱せる可能性があるということだ。
しかしそれはあくまでも選択肢の1つであって、優先度は低いだろう。
食べものや飲みものを得られない苦痛は耐え難いものだった。
頭も働かなくなるから、感情ひとつで短絡的な行動に出てしまうかもしれない。
自制出来る自信はない。
それからわたしは、何か役立ちそうなものはないかと期待して部屋の中を探索し回ってみたが、収穫はなかった。
当然と言えば当然なのだけれど。
クローゼットの中も空っぽだ。
わたしには、徹底的に何も与えないようにしている。
今ここにあるのは布団一式と、お菓子や飲みもの、今朝焼いてくれたはちみつトーストの残り。
どう使っても、鍵の代わりにはならない。
ここから出るのに、役には立たない。