スイート×トキシック
「……そうなの?」
「そうだよ。でも、届かないって分かってても好きなの」
“駄目”とか“やめよう”とか、そう決めて唱えるだけで想いがまるごと消えてなくなればいいのに。
どんなに辛くても、痛くても、止まないんだ。
現実を直視するほど、傷は広がっていくだけなのに。
(……あ、しまった)
どうしてこんなこと、十和くんに吐き出したんだろう。
恥ずかしい、と思うと同時に怖くなった。
これじゃ彼の気持ちを頭ごなしに拒んでいるのと同じだ。
それで不興を買ったら、ここまでの地道な努力や重ねてきた我慢が水の泡────。
「えっと、違くて……」
「分かるよ」
慌てて取り繕おうとしたが、彼の言葉に遮られた。
「え?」
「俺もおんなじ。こうやって現実見せられても、芽依が好きって気持ちは変わらない」
心臓が切なげな音を立てる。
瞳が揺れるのを自覚した。
「苦しいけど、でも笑った顔のひとつでも見られれば、それだけで報われた気がする」
ぎゅう、と心が締めつけられていくようだった。
その苦しさは身をもって味わっているし、そんなふうに彼を苦しめているのは自分なんだと分かるだけに、余計痛かった。
「……ま、こんなふうに閉じ込めて、一方的に気持ちぶつけといて何言ってんだって感じだけどねー」
ははは、と困ったように彼は肩をすくめて笑う。
好きな人のことをもっと知りたい気持ちも、ひとりじめしたい気持ちも、自分を分かって欲しい気持ちも、よく理解出来る。
同じ辛い想いを抱えているのだと改めて知ってしまうと、募っていた敵意が和らいでいった。
代わりに芽生えたこの感情は何だろう。
……同情? 共感?
「……ほんと、自分勝手なことしてごめん。芽依が好きなだけなのに、うまく出来なくてごめんね」
俯いた彼の顔が翳った。
儚げな表情が、声色が、空に吸い込まれていく。
わたしの心を揺さぶって、惑わして、鈍らせる。
(ずるいなぁ……)
そんなふうに謝るなんて────。
テーブルの上に載っていた彼の手に触れた。
十和くんがはっとしてこちらを向く。
「……大丈夫。わたしは平気だから」
「芽依……」
「わたしだってそう。分かんないよ、正しい想い方なんて。恋心に正解なんてあるの?」
十和くんの愛の形が異常だってことは分かる。
でも、間違っているのかな。
もし、わたしも同じように彼を求めたら、お互いの心がぴったり重なるのかもしれない。
そしたら、彼が間違っているとは言えなくなるんじゃないのかな……?